ワインとシエスタとフットボールとBACK NUMBER
オシムが指摘した勇敢さの欠如。
「それでも日本は大きく進歩した」
posted2019/02/04 11:50
text by
田村修一Shuichi Tamura
photograph by
Takuya Sugiyama
アジアカップ決勝の日本対カタール戦は日本の完敗に終わった。言い訳の余地のない敗戦を、イビチャ・オシムはどう見たのか。オシムが語った。
順当な結果だったということ。
――元気ですか?
「ああ、君は元気か?」
――まあまあですが、凄くいいわけでもないです。
「そりゃそうだろう」
――大変な試合でした。
「決勝はいつでも特別だ。どちらのチームも絶対に勝ちたいと願っている。しかも周囲は日本が有利という雰囲気を作り出していた。そんな中で敗れたのだから、当然失望は大きいだろう。
しかし言えるのは……順当な結果だったということだ。試合の入り方は、カタールの方が日本よりも圧倒的に決意に満ちていたのだから」
運は勇気を出した方に味方する。
――その通りでした。
「カタールは、最初から全力を出し切って戦う気持ちに溢れていた。日本の入り方は典型的な強者の入り方だった。この試合がどういう展開になるかをじっくりと窺い、最初から全力で何かをしようとはしなかった。ようやく自分たちで何かをしようとしたのは、先制ゴールを奪われてからだった。しかも追加点は阻止するのが難しかったときている……。勢いに乗ったチームは攻撃的になりシュートも積極的に打ってくるのだから。ああいったゴールが決まってしまうのも当然だ、といえる。試合中、勢いに乗った相手は攻撃を止めてはくれないのだから。
妻にも言ったが、勇気を出してゴールを奪ったチームが勝つのは当然だ。少なくともカタールは何かをしようと試みたのだから。そして、ふたつの素晴らしいゴールを奪った。まさに“勇気ある攻撃”によって成し遂げたゴールだ。
彼らは運にも恵まれたと言えるだろう。だが、運は勇気を出した方に味方するものなのだから……。ふたつのゴールはどちらもミラクルではあったが、その後で追いつくのは不可能ではないにせよとても難しいことになったわけだ」
――確かに。
「より厳しいプレッシャーをかけねばならないし、カタールは余裕を持って守りを固める。それでも、2対1になってからは、日本もやるべきことをやってペースを握った。さらにプレッシャーをかけ続けることができていたならば……結果もたぶん違っていただろう。
相手は不安を感じ始めていて、敗北の予感すら心にあったはずだ。自分たちよりも優れたチームが本来の力を発揮しはじめたことを、彼らは身をもって感じていたからだ。しかし残念ながら日本は、その状況を十分に活用できなかった」