サッカー日本代表PRESSBACK NUMBER
サッカー界とテレビ業界まで変えた。
実況席で見た1992年アジア杯初制覇。
text by
石倉利英Toshihide Ishikura
photograph byKazuaki Nishiyama
posted2019/01/08 11:00
1992年のアジア杯制覇を成し遂げ、歓喜に沸くオフトジャパン。若き日のカズ、森保一の姿も。
こんなに喜んでいいのかよ。
ただ実況しながら、別の感情も浮かんできていた。
「優勝したことは我が事のようにうれしかったですよ。でも『自分が疑っていたのに、こんなに喜んでいていいのかよ』という思いもありました」
この優勝を機に日本はアジアの強豪の仲間入りを果たし、2000年、2004年、2011年大会でも優勝。初優勝から20年足らずで、歴代最多の優勝回数を誇るまでになった。
一方で山本氏は、'92年の初優勝がメディアにも大きな影響を与えたとみる。
「優勝したことは日本代表にとって大きかったですが、サッカーのテレビ放送そのものにも大きな出来事だったと思います。それまで日本代表の試合を放送しても、たいてい負けていたわけです。でも、あの優勝で多くの人が、サッカー放送で喜びを見いだした。NHKも大きな成果がありましたが、民放各局も、翌年開幕のJリーグの放送に力を入れるきっかけになっただろうと思います」
『アバン』という映像の流行。
影響が表れたものの1つが、テレビ業界で『アバン』と呼ばれるものだ。ドラマやアニメで番組冒頭に流す、前回までのあらすじなどをまとめたオープニング映像のことだが、日本代表の試合中継でもアジアカップ初優勝を機に、そのときのシーンを『アバン』に盛り込むようになった。
それまで負けで終わっていた日本代表がタイトルを勝ち取ったことで、中継の冒頭に喜びのシーンを使い、試合への期待感を高めることができるようになったのだ。
あれから27年。初優勝メンバーの森保一監督が指揮を執る日本代表は、5回目のアジアカップ優勝を目指している。NHKを退職し、法政大学スポーツ健康学部教授として教鞭を執る山本氏は、実況という立場を離れて見るアジアカップに、こんな期待を寄せる。
「森保監督はメディアの立場から見ると、記者会見は決して面白くないですよね(笑)。当を得たことは話してくれるけど、面白い裏話をしてくれるわけじゃない。でもだからこそ、私たちだけでなく、戦う相手もつまらなくて、難攻不落じゃないかと思うんです。
現役時代のプレーが、そうでしたよね。目立つプレーはしなくても、相手にしてみれば、彼がいるエリアは攻めにくいし、スペースがない。味方としては、これほど心強い存在はいないわけです。
今回のアジアカップは初めての公式戦で、これまでの親善試合とは違います。采配そのものは当たっても、不運なプレーから失点することがあるかもしれない。そのときに、ひょうひょうと、彼らしい采配ができるのか。そこに注目しながら見ていきたいと思っています」