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ヴェルディ守護神・上福元直人の
カシージャスと同じ儀式と勇気。
text by
海江田哲朗Tetsuro Kaieda
photograph byJ.LEAGUE
posted2018/12/07 11:30
大分、町田を経て今季ヴェルディに加入した上福元直人。2018シーズンは自身初の全試合フルタイム出場を果たした。
「戻らなければヤバい」の本能。
ネットが揺れるのを見届けた上福元は、自陣に向かって疾走し、やがて大の字になって倒れる。そこにベンチから飛び出してきた控え選手やスタッフが覆いかぶさった。
「みんながサポーターの待つゴール裏に飛んでいくなか、なぜ自分だけ逆方向に走ったのか。たぶん、ゴールを守るキーパーの本能みたいなものだと思います。僕のヘディングがそのまま入ったならともかく、一度はセーブされているので。その瞬間、身体は後ろ向きになり、すぐに戻らなければヤバいと頭に浮かびましたから」
セットプレー自体はデザインされ、トレーニングを重ねてきた形ではある。あの土壇場で、相手にとっては計算外である上福元をフリーにする奇策に打って出たのか。
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「いや、その発想はないです。特に示し合わせたこともなく、意図して仕掛けたプレーではない」(井林章)
「自分もあのスペースは狙っていました。そこにカミが勝手に入ってきただけ」(平智広)
神秘性もサッカーの魅力。
ピッチ上には言葉も、周囲とのアイコンタクトさえなかった。
「かえって、それがよかったんじゃないですかね。あのプレーは、どうしても勝ちたいという魂のようなもの」(上福元)
一方、奈良輪雄太はこう語る。
「自分がクロスを上げて、ゴール前のカミがヘディングシュート。この居残り練習はたまにやっていて、ちょうど試合前日もありました。ここでそれが出るとは思ってませんでしたけど」
沖田政夫GKコーチもまた、「遊びじゃなかったということですよ。練習でやってきたことは無駄にならない」と話した。
このようにミラクルを生んだ背景は一応あるものの、すべてを理屈で結びつけるのは無粋というものか。上福元のルーティーンと同様、神秘的な領域もサッカーの魅力の一部である。