相撲春秋BACK NUMBER
日馬富士が残した最後の言葉。
「世界を旅して勉強したい」
text by
佐藤祥子Shoko Sato
photograph byKyodo News
posted2018/10/03 17:15
断髪式で横綱白鵬関(右)にキスされる元横綱日馬富士。
「すべて感謝の気持ちひとつだけ」
――貴乃花親方の退職については?
「私はもう相撲協会から離れてますんで、相撲協会のことは喋る権利はないので。18年間、相撲協会にお世話になったことだけを感謝しております」
――現役時代は全身にケガが多かったですが、戦わなくていい生活はどんな感じ?
「辞めてからケガ(の影響)が大変ですよ。筋肉が落ちたからか古傷が痛むんですよ。常に鍛えなきゃいけないなと思っています。今まで筋肉でかばっていたからね。両足首の靱帯切れてて、肘の靱帯が伸びてて。背中、腰……。体張る相撲なんでね、辞めたあと体がボロボロで。だからこれからも少しずつ体を鍛えながら、体を大事に考えて生活していきます」
――白鵬関、鶴竜関などライバルとの土俵入りでしたが?
「大横綱が刀(太刀)を持って、私のために時間作ってくださってね。うれしく思ってますね」
――もう思い残すことはない?
「はいっ。今日もステージの上(土俵上での挨拶)で言ったんですが、今日のご挨拶、どうやったらいいか練習したんだけど、もう語る言葉がなくて。親方やおかみさん、父と母、日本という国……。すべて感謝の気持ちひとつだけなんですよね。もっとこれがしたかったな、とか、これが足りなかったなとか、まったくございません。こんなに素晴らしいのかと思うくらい、すべてのことに感謝ですね」
――ファンからすれば、まだまだ横綱の相撲を見たかったのでは?
「たぶん僕自身も無理していたと思うんですよ。相撲取ってる頃はケガも多くて、ちょっと無理していたのかな、と辞めて気がついたんです。そういう意味では、精一杯、相撲をやらせていただきました。
もういいですか? 今日はありがとうございました。忙しいなか、ありがとうございました!」
そう言うと元横綱日馬富士は、真っ直ぐに背を伸ばし、主役を待つ客で溢れるパーティ会場へ向かった。
ドアの向こうには、まだ見ぬ新しい世界が開けている。