酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
引退試合を公式戦に組み込むことに
違和感を持つのはおかしいこと?
posted2018/09/27 10:30
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph by
Kyodo News
9月21日のDeNA、中日戦。
先発した加賀繁は、1回表、中日の先頭打者、平田良介を5球で三振に切って取った。平田は2-2からの内角高めのスライダーを空振りした。加賀はここで降板。ハマスタの観客席からは大きな歓声が上がった。
加賀繁は9月14日、記者会見を開いて引退を表明した。この試合は加賀の最後の登板、いわゆる「引退試合」だったのだ。加賀の先発登板は2014年以来4年ぶりのことだった。
しかし、この試合はセントラル・リーグの公式戦であり、しかもDeNAと中日は0.5差でクライマックス・シリーズ(CS)進出へ向けて「3位」の座を争っていた。
CSが導入されて以降、NPBの各球団にとって「3位」は死守すべき最後の砦となっている。
CSに進出できれば、そのチームはファンへの最低限の義務を果たしたとみなすことができる。DeNAアレックス・ラミレス監督、中日森繁和監督ともに、オフの去就が取りざたされているが、両指揮官にとっても「3位」はなんとしても死守したい一線になっていたはずだ。
しかるに、まなじり決して対戦すべきその試合の冒頭に「引退試合」がセットされたのだ。
間違いなく「公式戦」ではあるが……。
「引退試合」とは、引退を宣言した投手や野手が登場して、ファンに最後のプレーを披露するものだ。引退する打者に対して投手は真っすぐをストライクゾーンに投げ込むのが通例で、投手に対して打者は空振り三振するのがしきたりになっている。
加賀繁に対して、平田は作法通り空振り三振して見せた。しかしこれは「セレモニー」ではなく、永遠に記録が残る「公式戦」だった。
そして、両チームにとっては雌雄を決する真剣勝負だったのだ。
穿った見方をすれば、DeNAのラミレス監督は「引退試合」を持ってくることで立ち上がりの「1死」をキープしようとしたと邪推することもできなくはない。中日の森監督は、その意図は分かっていたが「1死は仕方がない」と思ったのかもしれない。そういうことなら、平田の空振りは両チーム公認の「お約束事」だったのだろう。
加賀と平田の心理がどのようなものであったかは、外部からは計り知れない。しかし、事実がどのようなものであったとしても、さまざまな「疑念」が残ったという点で、DeNAの加賀繁の起用は問題があったのではないだろうか。