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田中恒成と木村翔、最高のボクシング。
終了直後に抱き合った似つかぬ2人。 

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渋谷淳

渋谷淳Jun Shibuya

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photograph byHiroaki Yamaguchi

posted2018/09/25 11:30

田中恒成と木村翔、最高のボクシング。終了直後に抱き合った似つかぬ2人。<Number Web> photograph by Hiroaki Yamaguchi

双方が自分のいいところを存分に出して、そのうえで実力が拮抗する。田中恒成(右)と木村翔は最高の試合を見せてくれた。

村田、井上に隠れてはいるが田中は強い。

 田中はこの試合に危機感を抱いていたという。その大きな理由は木村というチャンピオンを心からリスペクトしていたからだ。

 王者でありながら敵地である名古屋に乗り込んだ木村。前回の試合から2カ月弱という短い間隔でこの試合を受けた木村。その心意気やリングで戦う勇敢な姿勢に、田中は敬意を抱いていた。ゆえにこの試合で得たものは大きい。

「今回の試合に向けて本当に追い込んできたし、自分と向き合ってきた。試合までの過程も含めていい経験になった。初心に返れるような試合だった」

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 五輪金メダリストのミドル級王者・村田諒太(帝拳)や、3階級制覇のモンスター・井上尚弥(大橋)という存在に隠れてはいるが、玄人筋の間で、田中の評価はとても高い。稀有な才能を持つ23歳は難敵を乗り越え、ひと回りも、ふた回りも成長したことだろう。今後が大いに楽しみだ。

「いつか木村翔が本当のメインで……」

 一方、敗れた木村は「気持ちのぶつかった試合ができた。試合の直後は気持ちよかったですね」と控え室で切り出した。恨み節はなく、悲壮感もないところは木村らしい。田中をたたえることも忘れなかった。ただ、短いインタビューの間に、ふと目に涙を浮かべたシーンもあった。

「いつか木村翔が本当のメインでやりたいですけどね……。いま、ボクシングをやりたいというのはないです。燃えたということじゃないですか。それくらい一生懸命やったし、全然悔いはない」

 中国で世界タイトルを獲得したときは、五輪2大会金メダリスト、ゾウ・シミンの引き立て役だった。日本で行われた初防衛戦のときは、メインをライト・フライ級統一戦に臨んだ田口良一(ワタナベ)に譲った。2度目の防衛戦も中国で、主役は地元の選手だった。

 田中がひと皮むけたように、29歳の木村だってこの試合で成長を遂げたはずだ。続けるのか、やめるのかは本人の意思にゆだねるしかない。ただ、あの思い切りのいい、気持ちがビシビシと伝わってくるボクシングは、もう少し見たい気がする。

 試合会場から電車を乗り継ぎ、帰京の途につく雑草王者の背中を眺めながら、そう思った。

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