ボクシング拳坤一擲BACK NUMBER
田中恒成と木村翔、最高のボクシング。
終了直後に抱き合った似つかぬ2人。
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byHiroaki Yamaguchi
posted2018/09/25 11:30
双方が自分のいいところを存分に出して、そのうえで実力が拮抗する。田中恒成(右)と木村翔は最高の試合を見せてくれた。
「なぜ打ち合ったのか」という質問。
試合後の田中は「なぜ打ち合ったのか」という記者の質問に「なぜそんな質問をするのか」と言わんばかりに答えた。
「オレもけっこう打ち合ってきてますから」
打撃戦は木村の土俵であるかもしれないが、田中恒成の土俵でもあることを忘れてもらっては困る。プライドを感じさせる発言だ。
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2回にカウンターの左フックで木村をグラつかせた田中は、その後もキレのあるワンツー、王者のお株を奪う左ボディブローでペースを上げる。コンビネーションが何しろ速い。木村も左フック、アッパーをヒットさせて応戦するが、挑戦者はまったくひるまない。試合はグングンとヒートアップしていった。
超接戦の判定の末に……。
田中は巧妙にも、中盤に入ると持ち前の機動力を使い始めた。左右に動いて翻弄したかと思えば、一転して頭をつけて打ち合うなど、自らのスキルをフルに使って試合を組み立てる。気迫も十分で、むしろ相手を押し込む場面は田中のほうが多いくらいだ。
木村は苦しいように見えたが、やはりこの男のガッツとタフネスは別格。もらっても果敢に打ち返し、得意のボディブローで田中を削っていく。7回には強烈な右ストレートを決めた。右目を大きく腫らし、「終盤は右目がまったく見えなかった」と言いながら、弱気な姿は一瞬たりとも見せなかった。
最終回はこの試合を象徴するかのような打撃戦が繰り広げられた。どちらが倒れてもおかしくない状態のまま試合は終了。
まず読み上げられたスコアは114-114でドロー。続く2人が115-113、116-112で田中を支持。新王者の「きょうはきつかった。でも、きつかったなりにはまった」というセリフが、この一戦を端的に表していたと思う。