ボクシング拳坤一擲BACK NUMBER
兄・尚弥と2人でバンタム級を制圧。
井上拓真が世界王座への挑戦権獲得!
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byKyodo News
posted2018/09/12 14:30
井上拓真と井上尚弥、世界のバンタム級をこの2人が占拠する日が現実に近づいている。兄弟対決、なんて可能性も……?
一度は決まった世界戦を怪我で失い……。
実は拓真も'16年暮れに、WBOバンタム級王座に挑戦することが一度は決まった。ところが自らの拳のけがでこれを流してしまう。1年のブランクをへて再起し、4度の世界挑戦経験を持つ久高寛之、元日本王者の益田健太郎というタフな相手を連続して退け、ようやく挑戦者決定戦の舞台に立ったのだ。
試合を組んできた大橋秀行会長は「拓真はデビュー戦から日本ランカーと戦い、その後もタフな試合をこなしてきた。これほど強豪と対戦してきた選手はほかにいない」と言い切る。ダウンや苦戦も経験した。拓真の戦績を見ると12勝3KO無敗とKOが少ないが、これはいわゆる“噛ませ犬”との対戦がほとんどない証とも言える。
拓真は紛れもなく優れたボクサーだ。コンビネーションのスピード、ステップインの鋭さ、パンチを見切る目、カウンターを取るタイミングには非凡なものがある。だからこそ、これまで強豪相手に負けることはなかった。ただし、その才能が大きく花開いているかといえば、まだ7分咲きといったところだろう。
トレーナーからの注文は?
今回の試合も実力者ヤップ相手にしっかり勝利したが、ジャッジ1人が114-113をつけたように、時折いいパンチを食らうなど、決して100点と言い切れる内容ではなかった。真吾トレーナーはヤップ戦が終わった控え室で「拓真に注文は?」との質問を受け、次のように答えた。
「最初はちょっと慎重になりすぎましたね。もう少し、なんだろうな、こっちがヒヤヒヤしないような荒々しさも出してほしい。そういうところで自分のペースに引きずり込んでいくとか。そういう場面もつくってほしいというのはあります」
あまり細かいことを気にしない尚弥に対し、何事にもきちっとしている拓真。いろいろな考えがあるのだろうが、拓真の試合を見ていると、「もっとできるのでは」と思わずにはいられないときがある。
ヤップ戦では、最終回にこの試合で初めて距離を詰め、打ち合いに挑み、相手のパンチをしっかり外し、スピード感あふれるコンビネーションを放った。もっと早いラウンドからこれを見せていれば、試合はさらに盛り上がったことだろう。