相撲春秋BACK NUMBER
長期休場した横綱たちの物語――。
貴乃花と武蔵丸のライバル秘話。
text by
佐藤祥子Shoko Sato
photograph byKyodo News
posted2018/09/10 16:30
右ひざのけがを押して優勝決定戦に臨み、武蔵丸を左上手投げで下し優勝した貴乃花。
横綱というライバル性の重さ。
'03年1月初場所9日目、貴乃花引退。同年11月九州場所8日目、武蔵丸引退。ライバルはそれぞれの想いを胸に燃え尽きた。かつては栃若(栃錦・初代若乃花)柏鵬(柏戸・大鵬)、北玉(北の富士・玉の海)、輪湖(輪島・北の湖)時代と称され、東西に両雄が並び立ち、互いに鎬を削って一時代を築いた。「横綱は孤独だ」と歴代横綱の誰もがそれぞれに口にしたが、故大鵬は、生前「大鵬あっての柏戸、柏戸あっての大鵬だった」と、孤独を分かち合ったライバルを偲ぶ言葉を遺してもいる。
3横綱が頂点に立つ現在の相撲界だが――白鵬も鶴竜も然り――それぞれがそれぞれの宿命を背負い、孤独な土俵に立つ。なかでも今、孤高に喘いでいる横綱稀勢の里のライバルは、己のなかにこそ深く潜んでいるのだろう。
(『Number PLUS 疾風!大相撲』「貴乃花VS.武蔵丸」改稿)