マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
甲子園に着いた学校が悩むこと。
昔は選手のケンカ、今は体重増加?
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byHideki Sugiyama
posted2018/08/17 07:00
近年の高校球児たちは軒並み体格がいいが、その中には「甲子園に来てから数キロ増えた」選手も多いのかもしれない。
「最近の子はおとなしいもんです」
「最近の子はおとなしいもんです、昔に比べればね。お題目だけじゃなくて、本気で試合の日に全力でプレーに打ち込めるように、そこまでの時間を使っている。
だから、ほぼほぼ実力通りの結果を出してくれます。勝ちそうだと思った相手には勝つし、あぶないかな……と思う相手にはちゃんと負ける。こっちとしては予定が組みやすいし、想定が立てやすくて助かるけれど、こっちがびっくりするような大勝負っていうのがなくなったなぁ……それが、ちょっとさみしい気もするね」
昔は、甲子園で関西にやって来て、「男になって」郷里に帰っていった“猛者”が、チームに何人かはいたのだそうだ。
「まあ、手を焼きました。油断もスキもありゃしない。ちょっと目を離したら、もういない。コンビニなんてなくてスーパーに買い出しに行ってた時代なんて、品物の納品用の出口からドロンですよ。3年の最後の夏ですから、こっちももうそんなにうるさく言わないだろうってタカをくくって、向こうのほうが上手(うわて)ですよ」
苦い思い出でもあるんだろうに、不思議と、部長先生の横顔が懐かしそうになごんでいる。
「しかし、いったいなんなんですかねぇ」
「そういうヤツらだったからなのか、勝てるわけないような格上のチーム相手にして、土俵際で豪快にうっちゃり食らわしてね……そんないい思いさせてもらったこともありましたけどね」
いや、べつに、そんなことすすめてるわけじゃないですよ……。
あわてて打ち消すあたりが、やはり“先生”なのか。「しかし、いったいなんなんですかねぇ……高校野球の強い、弱いとか、甲子園の勝ったとか、負けたとかって、ねぇ」
そこまで言って、ちょっと目線を下げた野球部長先生の向こうを、コンビニ袋を下げてホテルに戻ったポッチャリ型の選手たちが、もう暗くなっているのに「こんちわ!」と言いながら通り過ぎていった。