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公式カメラマンだけが踏み入れた
サンウルブズの“聖域”ロッカールーム。
text by
近藤篤Atsushi Kondo
photograph byAtsushi Kondo
posted2018/07/26 07:00
中央で祈りを捧げているのは南ア出身のヴィリー・ブリッツ、ヘンカス・ファン・ヴィック、ヴィンピー・ファンデルヴァルトの3選手。
「あと数試合、勝てたっすね」
試合の翌日、チームはブリスベンの中心街から徒歩で20分ほどのところにある瀟洒なカフェに集まり、最後のランチをとった。
ビール、コカコーラ、ミネラルウォーター、それぞれが好みの飲み物を注文し、まずはシーズンを闘いきったことに乾杯する。お疲れ様でした! 誰もがその後に「長かったなあ」と言い、「いや、でもあっという間だったよね」というセリフを続けた。
僕の前にはプロップの浅原拓真が座っていた。
「いやー、疲れたっすよ。でも楽しかった。もうあと数試合、勝ちたかったすね、勝てたっすね」
「確かにもう一巡やったら、もっと勝てるだろうね」と僕が付け加えると、バズ(浅原の愛称。映画『トイ・ストーリー』のキャラクターにそっくり)はいつもの屈託のない笑顔とともに、首を大きく横に振って答える。
「いえいえ、もうみんな、身体も心もボロボロっすから」
チームはレストランで2時間ほどランチを楽しむと、ホテルに戻り空港へ向かうバスへ乗り込む。これで本当に彼らとはお別れである。別府でのプレシーズン合宿が始まったのは1月の最後の週。そこからおよそ5カ月半、サンウルブズの面々はほぼ毎週、肉体を鍛え、技を磨き、チームワークを高め、闘い続けてきた。
ドクターはサーカス一座にたとえた。
前回サンウルブズがオーストラリアに遠征してきた際、ほぼ全シーズンチームに帯同した坂根正孝ドクターは宿泊先のメルボルンのバーで、この5カ月半を旅のサーカス一座にたとえた。
「座長がいて、副座長がいて、空中ブランコの得意なのも、曲乗りが得意なのもいる。動物もいれば、動物の世話係もいる。みんなで旅をして、ある街で興行を打って、お客さんを楽しませる。そしてまた次の街へと移動する。長い旅だから、小さな揉めごとも起こるし、病人やけが人も出る。それをみんなで解決しながら、旅を最後まで続ける。そんな感じですかね。私は好きですよ、こういうの」
僕は彼らのバスをホテルの前で見送ると、小さなため息をひとつつき、日常へと戻る心の準備を始める。5カ月半、僕もまたサーカス一座の一員として、いくつかの旅を共有させてもらった。それはどれも本当に素晴らしい旅だった。