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オシム「サッカーの未来が分かる試合」
クロアチアvs.イングランドの重要性。
posted2018/07/09 11:50
text by
田村修一Shuichi Tamura
photograph by
Takuya Sugiyama/JMPA
「日本はどうなっているのか。また台風の犠牲が出たのか?」というのが、開口一番のイビチャ・オシムの言葉だった。
「台風ではなく豪雨ですが大きな犠牲が出ています」と答えると、「1日も早く復興して欲しいし、いつの日にかこうした災害の犠牲がなくなることを願ってやまない」とオシムは続けた。
今しがた終わったばかりのクロアチア対ロシア戦の興奮が冷めやらぬ私に、彼の言葉は冷水を浴びせかけたといってもよかった。クロアチアの準決勝進出をオシムも純粋に喜んでいるだろうと思いこんだのは、あまりにシンプルでナイーブであるといえた。
自分の立ち位置を常に確認し、言及すべきことに言及する。
サッカーに関しても、適切な距離感と客観性を決して失わない。
彼の言葉を聞いて、私も冷静さを取り戻すことができたのだった。
おもむろに彼は語り始めた。ロシア対クロアチアの準々決勝について、クロアチア代表というチームについて、そして次のイングランドとの準決勝について……。
準々決勝を終えてのオシムの言葉をここに掲載する。
「だからすべての試合が生きるか死ぬかになる」
――(ロシア対クロアチア戦は)壮絶な試合になりました。
「サッカーも真剣勝負で、それぞれの試合が喉元にナイフを突きつけられている状況だが、身体に問題のある人は死に至ることもあり得る。ワールドカップをプレーする選手たちは皆100%かそれ以上を出し切っている。力尽きて走れなくなってもなおプレーしようとする。ソチの気温がどのくらいだったか教えてくれ」
――もの凄く暑いです。35度に近かったと思います。
「それは厳しい。ソチは黒海海岸沿いの美しいリゾート地だ。多くの人々が夏のバカンスや冬の避寒で訪れ、休養するにはいい場所だ。しかし今は暑すぎる。だからすべての試合が生きるか死ぬかになる。
すべてを出し切らざるを得ない選手は、フィジカル面でもメンタル面でもほとんど空っぽになる。チームの力は拮抗し、多くの試合がPK戦までもつれ込むから、プレーするのがとても大変だ。
たったひとつのミスが命取りになる。そうした人生を送るのは簡単ではない。まったくミスすることなく生きていくのは。
ミスを犯せばきつく咎められる。あまりに厳しいと言わざるをえない」