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「グローブ・イップス」の恐怖とは。
国を越えて野球を仕事にする難しさ。
posted2018/06/24 11:00
text by
田中大貴Daiki Tanaka
photograph by
Kyodo News
「大貴さん、守ってるときにグローブ・イップスになる感覚わかります? 怖いんですよ……ホントに」
ボソッとこぼした彼の言葉が衝撃的だったことを、今でも鮮明に覚えています。
海を渡って2年目を迎えたスプリングキャンプの取材終わりに「せっかくだから僕の車でホテルまで送りますよ」という親切な言葉に甘えて、飛び乗った車中で西岡剛という男が吐露した言葉でした。
「グローブ・イップス」
初めて聞く言葉に戸惑いが生じ、それと同時に克服するのが非常に困難であるという想像が大きく膨らみました。
日本で首位打者、最多安打、ベストナイン、ゴールデングラブ賞を獲得し、千葉ロッテマリーンズ日本一の立役者となった西岡剛は、2010年にアメリカ大リーグ、ミネソタ・ツインズに移籍。
身体能力の高さ、フィジカルの強さ、そして群を抜く野球センス。日本球界トップクラスの内野手として大リーグに挑んだ西岡選手が、メジャー1年目のシーズンを終え、初めて生じた感覚に苦しんでいました。
「出るはずのグローブが……」
「グローブが出なくなるんですよ。ゴロ処理の時に、今まで身体に刷り込んできた、反射的に出るはずのグローブが、出なくなる時があるんですよ」
百戦錬磨のあの西岡剛が、グローブを出したくても出ない……。ゴロ捕球ができない……。
なぜ、そんなことが起こるのか?
「天然芝と赤い硬めの土が敷かれた内野グラウンドに、大リーグ選手のゴロが転がってくると、見たこともない速い回転とバウンドで来るんですよ。そうなると、頭と身体が混乱してグローブを出すタイミングが分からなくなるんです。そして、グラブが出なくなる……これがグローブ・イップスってやつです。日本や韓国の選手は知らず知らずのうちにそうなる選手が結構います」