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井上尚弥、バンタム級でも強すぎ説。
余裕の3階級制覇からWBSS参戦へ。
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byHiroaki Yamaguchi
posted2018/05/28 11:40
テレビ中継の“尺”を大いに余らせてしまうほどの圧勝劇。バンタム級でも井上尚弥は圧倒的だ。
相手が万全の調子だったとしても。
長身選手用に磨いていた角度を変えた左フックを振り抜くと、これをテンプルにもらったマクドネルがグラリ。さらに右フックから左ボディのコンビネーションを打ち込むと、チャンピオンが早くもキャンバスに転がった。
マクドネルは立ち上がって何とかプライドを保とうとしたが、その表情は完全に引きつっていた。井上は間髪入れず襲い掛かり、怒涛の13連打でマクドネルを沈めると、大田区総合体育館の観衆は総立ちだ。まさか、まさかの1分52秒。ペンを持つ手が震えるほどの衝撃だった。
試合後、マクドネル陣営のプロモーター、エディ・ハーン氏は「99%のボクサーが、昨日のジェイミーほどの減量を乗り越えることはできないだろう。それでも井上へのリスペクトがあったから、それを乗り越えることができた」と減量に苦しんだマクドネルのコンディションが万全ではなかったと明かした。
計量当日、激しく消耗したマクドネルを見ているから反論はない。しかし、もし英国人王者がベストの状態でリングに上がっても、試合の内容はそれほど変わりはしなかったと思う。
ディフェンスなどお構いなしのスタイル。
井上にしても決してベストとは言えなかったのだ。「(バンタム級に上げて)パワーは感じた。エネルギーが満ち溢れているというか」と階級アップに手ごたえを感じながら、「めちゃくちゃ硬かった。力んでしまった」と自らのパフォーマンスを振り返った。
この日の井上はスタートからパワフルなパンチをブンブン振り回した。いつものようなきれいなフォームには程遠く、ディフェンスなどお構いなしというスタイルだった。最後のラッシュは「(ガードが)がら空き」と本人が苦笑いするような攻撃で、実際に右ストレートを一発きれいに食らった。
気持ちが入りすぎて硬くなってしまったのは、それだけこの試合が重要であり、いい内容で勝利したいという思いが強かったからである。
「この試合に対するプレッシャーはどの試合よりもあったし、次も決まっている中での3階級制覇だったので、いままでにない重圧があって、それがやっぱり爆発したというか」