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田口良一はなぜ王座を失ったのか。
恐怖と、届かなかった1ポイント。 

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渋谷淳

渋谷淳Jun Shibuya

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photograph byHiroaki Yamaguchi

posted2018/05/21 12:25

田口良一はなぜ王座を失ったのか。恐怖と、届かなかった1ポイント。<Number Web> photograph by Hiroaki Yamaguchi

さすがの終盤力を見せた田口良一だったが、一歩及ばず。もう1ラウンドあれば、と言っても仕方がないのだが……。

ずるずるとポイントを失っていった前半戦。

 今回の試合は減量に苦しんだ。前回の試合では1キロ落ちた前日練習で400グラムしか落ちず、睡眠時間も2、3時間。歯車はスタートからかみ合わなかった。

 ブドラーは小柄にして、機を見るに敏だった。動きの重いチャンピオンを見てとるや軽快に動き回り、3発、4発と続くコンビネーションを小気味よく打ち込んでいく。

 田口はそんな挑戦者をとらえきれず、かといってアウトボクシングをするでもなく、ズルズルとラウンドを失っていく。

 得意の右ストレート、左ボディブローを決めるシーンもあるのだが、ペースを引き寄せるまでにはいたらない。

 ワタナベジムの先輩、元世界王者の内山高志氏が「前半がもったいなかった。足を使って捌くなりすればよかった」と振り返ったように、結果的に前半の失点が最後まで響くことになる。

あと少しでTKOまで追い込んだが……。

 それでも試合中は、後半に強い田口なら盛り返すことができるのでは、という期待もあった。

 田口は決してパンチ力があるわけでもなく、圧倒的なスピードがあるわけでもない。鍛え上げたスタミナを駆使し、すり足で相手を追いかけながらコツコツとパンチの雨を浴びせ、終盤に相手を追い詰めるボクシングだ。それを可能にさせるのは旺盛なスタミナであり、何より強靭な精神力である。

「もう後半は全部とるしかない。インターバルで何度もはっぱをかけたんですけど……」

 石原トレーナーはコーナーで、2013年の屈辱、井上尚弥(大橋)戦の敗北を田口に思い出させようと試みた。

 この試合は日本タイトルマッチで、王者の田口はデビュー4戦目の大物新人“モンスター”井上を迎えた。下馬評は圧倒的不利。試合は敗れたものの、田口の闘志はすさまじく、控え室での憔悴と虚脱のあり方は、敗れたボクサーはかくあるべきだ、という理想を体現していた。

 田口は後半追い上げた。ただし、見ている者の心を熱くするような田口らしい猛追とはいかなかった。最終回にダウンを奪い、あと少しでTKOというところまで追い込んだが、詰め切ることはできなかった。

【次ページ】 1点差の判定にも、本人はさばさば。

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