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田口良一はなぜ王座を失ったのか。
恐怖と、届かなかった1ポイント。
posted2018/05/21 12:25
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph by
Hiroaki Yamaguchi
ライトフライ級でWBAとIBFの2冠を保持する統一王者、田口良一(ワタナベ)が20日、大田区総合体育館で防衛戦を行い、挑戦者のヘッキー・ブドラー(南アフリカ)に3ジャッジすべて1ポイント差の0-3判定負けを喫し、WBA王座では8度目、IBF王座では初防衛に失敗した。
2014年大みそかの王座獲得から3年5カ月。安定王者の田口はなぜ敗れたのか―─。
デビュー当時から田口とタッグを組む石原雄太トレーナーは迷っていた。試合まであと6日というタイミングだった。
「こうすればいい、というのが正直分からない。ブドラーはとてもクレバーで、状況に応じて戦術を変えられる選手。これっていう何かがあるわけじゃないんですけど……」
30歳のブドラーはWBAミニマム級王座を暫定も含めると5度防衛している。この中には敵地フィリピンに乗り込み、前IBF王者のミラン・メリンドと分のいい判定負けを演じる試合も含まれており、35戦のキャリアはなかなか中身が濃い。
石原トレーナーが迷いを口にしたのと同じ日、田口は「ブドラーは打ち合うときもあるけど、たぶん足を使ってくると思う」と話していた。いったい相手はどう出てくるのか?
30戦のキャリアで最悪だった田口の状態。
そして試合開始のゴングが鳴ると、ブドラーは田口に果敢に襲い掛かり、数々のコンビネーションを繰り出したのである。
いわば虚を突かれた形だが、普段の田口であれば十分に対応できたはずだ。ところがこの日は、コンディションの不良というもう1つの誤算があった。
「もうちょっと最初からペースを握れると思っていたけど(体が)動かなかった。先手を取ろうと思っていたのに先手を取られてしまった」(田口)
「あんなに足が動かない田口は初めてですね。動けないという意味では30戦のキャリアで最悪でした」(石原トレーナー)