ボクシング拳坤一擲BACK NUMBER
田口良一はなぜ王座を失ったのか。
恐怖と、届かなかった1ポイント。
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byHiroaki Yamaguchi
posted2018/05/21 12:25
さすがの終盤力を見せた田口良一だったが、一歩及ばず。もう1ラウンドあれば、と言っても仕方がないのだが……。
1点差の判定にも、本人はさばさば。
最終スコアはジャッジ3人とも114-113でブドラー。大田区総合体育館の観衆は「信じられない」といった雰囲気で、不平を口にするファンもいたが、田口は「負けたと思いました。ブドラーはうまかった」とさばさばとしていた。
石原トレーナーは試合後「いつもよりナーバスになっている感じだったし、何か大きなプレッシャーを背負っているようにも思えた。そこにもう少し気が付いてあげればという気持ちがある」とメンタルも万全でなかったと明かした。
昨年12月、日本人選手として2人目の3団体統一王者となった。悲願の統一王者となり、モチベーションを保つのが難しかったのかもしれない。あるいは新たに増えた肩書きが逆にプレッシャーとなってしまった可能性もある。
おつかれさまムードはどこにもなかった。
田口は世界チャンピオンとしては比較的地味な存在に甘んじてきた。それでも9度も世界戦の舞台に立つというのは、心身ともに大きなダメージを負う。
V12戦で敗れた内山しかり、V13に失敗した山中慎介しかり、ひたひたと静かに、そして確実に忍び寄る敗北という恐怖は、味わったものでなければ分からない。
ベルトを失った31歳が今後どのような道を選択するのか。内山氏は「あきらめないで復活すると思う」と口にした。ブドラーは再戦に歓迎の意向を示した。石原トレーナーは1階級上げて、昨年統一戦が期待されながら流れた元2階級制覇王者、田中恒成(畑中)との因縁対決に挑むのも面白いのではないかと話した。
「おつかれさま」と肩を叩くムードはどこにもなかった。