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サンウルブズを3カ月半追いかけて。
スーパーラグビー初勝利は必然だった。
text by
近藤篤Atsushi Kondo
photograph byAtsushi Kondo
posted2018/05/17 11:30
サンウルブズの記念すべき今季初勝利は、ホーム秩父宮での出来事だった。涙を流しているファンの姿も見られた。
1人の男が「きょーつけーっ!」。
ビデオが流れ終わると、選手たちの前に1人の男が現れ、いきなりものすごく大きな声で「きょーつけーっ!」と怒鳴った。選手たちが一斉に席を立って、直立不動の姿勢をとる。それは彼らが訓練でお世話になった鬼のように厳しい自衛隊の指導官だった。
「気合が足りーん!」選手たちはちょっと嬉しそうな笑顔を浮かべながら、「はいっ!」と大きな声で返事をする。
すると、指導教官はこう続けた。しかし、今日のお前たちを見て、俺は安心した。お前たちには気合がある。だから、俺はお前たちが今日は勝てると信じている……。
勝てると信じていたのは、誰よりも信じていたのは選手たち自身だったのかもしれない。
そのミーティングからほぼ7時間後、サンウルブズはレッズ相手に63-28という大差で今シーズンの初勝利を手に入れた。63という数字はこの3シーズンでチームが記録した最多得点でもあった。
SOに入ったパーカーのキックは冴えに冴え、SH流の判断はいつにも増して速く精確だった。FW陣の前へのキャリーは鋭かったし、DF陣のサイドでのディフェンスも最後まで穴を見せなかった。
相手のレッズが波に乗り切れていなかったことを差し引いても、この日のサンウルブズは素晴らしかった。レッズがメンバーを落としてきたのではなく、サンウルブズが強かったのだ。
そして、この事実、決して相手が一軍半で挑んできたのではない試合に大勝したという事実は、サンウルブズにとって大きな転換点になるかもしれない。
サンウルブズが宝に見える。
最初の話に戻ると、別府での合宿からほぼ3カ月半、僕はサンウルブズとスーパーラグビーを見てきた。1勝9敗、勝率は10分の1、しかし僕にはこのサンウルブズというチームは宝に見える。あるいは、ダイヤモンドの原石に見える。
ものすごくハイレベルでものすごく面白いプロラグビーリーグがあり、そこにアジアから唯一参加しているチームがある。
もしこのクラブが本当に勝ち始めたら……もし僕が大企業のオーナーか社長なら、今のうちにサンウルブズのスポンサーになっておく。ここにはとんでもない可能性が潜んでいる、そう僕は確信している。