相撲春秋BACK NUMBER
“怪我”を乗り越えた新三役・遠藤。
「忍んだ先」に笑顔はあるか?
posted2018/05/12 11:00
text by
佐藤祥子Shoko Sato
photograph by
Tamon Matsuzono
「忍んだ先」
一昨年26歳の誕生日、巡業先で報道陣に請われ、遠藤が色紙にしたためた言葉だ。その意味を問われると、「今、こうして忍んでいるけど、その先に少しでも光があればいいな、と思って……」と答えたという。
新入幕から5年。
遠藤が堪え忍んだ先に、ようやく新三役の地位があった。
番付発表の記者会見の日、目も覚めるようなピンクの着物姿で臨んだ遠藤だったが、晴れがましい席でも笑顔はなかった。「いつもの番付発表と変わらない」と、その表情は崩れない。笑みのない理由を問われ、「隙を見せないように」と、自分を戒めるよう口にする姿に、傍らの師匠がフォローする。
「うれしくないはずがない。それを表に出さない。今(の時代)はサービスが足りないとかの話になるけど、記者さんの前で話さないようになったのは、この3年間。相撲で勝って証明していくしかない。勝って初めて認められる。本当は笑っているんですよ、うれしくて。だけどそれを出さない」
やっと差してきたかの一筋の光にも、遠藤は気を緩めず、すがらなかった。
「まだ、お先真っ暗。今と向き合って、つらいときは忍んで、必死にもがいてやるしかないです」
大相撲ブームを牽引する人気力士として。
思い起こせば、土俵で相手と対峙し戦う以前に、自身のケガと孤独に向き合う月日だった。
幕下10枚目格で初土俵を踏み、わずか2場所で十両昇進。新十両の場所で優勝し、新入幕した2013年9月。勝ち越したものの途中休場し、左足を捻挫し剥離骨折をしていたと明かす。このときからすでに、その“歯車”は狂い始めていたという。
出世にまげが追い付かない、ザンバラ髪の関取。
スピード出世と端正なマスクで一躍注目され、近年の大相撲ブームを牽引することになる。