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“怪我”を乗り越えた新三役・遠藤。
「忍んだ先」に笑顔はあるか?
text by
佐藤祥子Shoko Sato
photograph byTamon Matsuzono
posted2018/05/12 11:00
その佇まいに風格が出てきた遠藤。さらなる躍進の先で、ふたたびの笑顔が見られることを多くのファンが願っている。
遠藤人気が過熱していった時期。
新入幕直後のこの当時、巡業先でのインタビューに応えてくれた遠藤は、23歳の若者らしく、プライベートな質問も楽しむかのように屈託のない笑顔を浮かべていた。
「最近カラオケで歌ったのは清水翔太」
「好きな色はピンク。着物もタオルも、パンツもピンクを持ってますよ(笑)」
「自分の性格? マイペースで、時間にルーズかも(笑)。家族みんなそうなんです。『3時に出るぞ』というと、だいたい3時半になる。小学生の頃は朝8時までに登校するのに、家を出るのが7時57分。車で3分って計算で、母親に車で送ってもらうのが前提でしたね」
「ファンに見てもらいたいアピールポイントですか? う~ん。四股。それくらいしか取り柄がないです」
場所を追うごとに遠藤人気が過熱するなか、翌'14年2月。同じくイケメン力士の隠岐の海とふたり、相撲協会が企画した「お姫様抱っこイベント」に遠藤の姿があった。
色紙に見た「生きることに必死」の文字。
にこやかに女性たちを抱き上げ、記念写真に収まり、優しい笑顔を向けてプレゼントを受け取る。
微笑ましく和やかにイベントが進むなか、会場の隅でファンが遠藤に色紙を求めた。ふと覗くと、その色紙には「生きることに必死」との文字が書かれていた。
まさに人気絶頂、直前の1月場所では11勝をあげ、初の敢闘賞を受賞した直後のことなのに――。
そぐわないこの意外な文言に驚き、「イケメンエリート力士」の、まだ見ぬ素顔を覗いた気がしたものだった。