ファイターズ広報、記す。BACK NUMBER
敗戦後の空港ロビーで見た幸せな光景。
主将・中田翔が起こす化学反応とは?
posted2018/05/11 10:30
text by
高山通史Michifumi Takayama
photograph by
Kyodo News
すがすがしく、誇らしいシーンに遭遇した。
後輩も含めてチームメートからのニックネームは「大将」である。そう呼ばれる1人の選手の行動に目を奪われた。
ゴールデンウイークの序盤、4月30日の夜だった。
その日は北海道日本ハムファイターズは、敵地のZOZOマリンスタジアムで千葉ロッテマリーンズと対戦。2-4で敗れ、連敗を喫して3連戦を1勝2敗で負け越した。その足で、羽田空港へとバス移動。5月2日からの東北楽天ゴールデンイーグルス戦が控える本拠地の北海道へと戻るため、出発ロビーで搭乗を待っていた。
選手たちは徒労感と闘い、重苦しい空気が漂っていた。搭乗アナウンスまで、45分ほど待ち時間があった。
ふと目をやると、選手の一団の辺りに小さな人だかりができていた。その中心に、中田翔選手がいた。北海道へと向かう便だったため、その日の試合を観戦したと思われるファイターズのユニホームを着用したファンの方々、また居合わせた一般客とおぼしき人たちが、ざわざわとしている。
入れ替わり立ち替わり、中田選手の元へと向かう。スマートフォンを差し出し、写真撮影のお願いをしていたのだ。
写真のリクエストに応え続けた中田。
広報である私の職務としては、選手に負担、また周囲に迷惑が掛かる状況であれば「ここでは応じることはできません。ご理解ください」などと、その場を整理することもあるケースである。自然と事態が収拾するかどうかも含め、しばし観察していた。
老若男女、世代を問わずに写真をリクエストしていた。1人、また1グループずつ応じていた。身長183cmの中田選手は時に膝を軽く折り、相手の目線に合わせていた。リクエストしてきた方が目いっぱい手を伸ばしての自撮りでの2ショットの求めにも、笑顔でフレームに収まっていた。内容は聞き取れないが、軽く会話もかわしていた。
敗戦していただけに、勝利の後よりも気乗りするはずはないシチュエーションだった。試合の緊迫感、重圧からも解放されるひとときだったはずである。中田選手は、笑顔を絶やすことなくお願いをされた全員に応えていたのである。微笑ましい一コマ。広報ではあるが、その場を整理、制限することは控えた。