サッカー日本代表 激闘日誌BACK NUMBER
ジャーナリスト二宮寿朗が目撃した激闘の記憶
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byKYODO
posted2018/03/30 10:00
神懸かったスーパーセーブでチームを勝利に導いた川口(中央)を中心に喜ぶ日本代表。
「決められたら終わり」を防ぎ続けた。
4人目のキックを左手で弾き、バーに当てる。5人目はその威圧感でゴール左へ外させる。これで3-3のイーブンに引き戻した。
6人目のサドンデスに突入すると中澤佑二が失敗。またしても「決められたら終わり」の状況下で、川口は右手で弾いてバーに当てる再びのビッグセーブでスタンドを黙らせるのである。流れは、もはや日本。7人目、宮本がゴール左隅に流し込んで、ようやく「外したら終わり」の重圧を相手に与える。相手のキックはゴールポストに弾かれ、ガッツポーズで走り出す川口に次々と選手が抱き着いていく。
手に握る汗を拭きとってノートに最後、走り書きしたのが、「川口、神懸かり」。当時、スポーツ新聞の記者だった筆者は、リードにその言葉を真っ先にぶつけた。
「1本止めたら、流れは変わるなと」
経験の力。
4年ほど前に川口を取材した際、彼はこのPK戦の勝利をそう表現した。
「あのヨルダン戦、1本止めたら、流れは変わるなと思っていました。プレッシャーが懸かる試合であればあるほどそうなりやすい。あれだけの大観衆のなか、ヨルダンは勝てば初めてのベスト4という状況ですから。逆に日本は過去2回、優勝の経験があって、経験差を考えれば精神的に優位に立てる。1本止めたら、プレッシャーが強くなるのはヨルダンのほうだと思っていました」
その言葉どおり、1本止めたことで流れを変えた。自分の働きぶりは横に置き、アジアで勝ってきた日本代表の歴史が「精神的な優位」を与えたと守護神は語った。
チームは準決勝でバーレーン代表を延長戦の末に破り、決勝ではホスト国の中国代表を相手に3-1で勝利。欧州からはレッジーナの中村、ノアシェランの川口など参加できる選手が限られたなか、アジアカップ2連覇を果たした。