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MLBで日本人初の女性トレーナーに。
父は2000本安打、谷沢順子の挑戦。
text by
及川彩子Ayako Oikawa
photograph byAyako Oikawa
posted2018/02/21 08:00
メジャーリーガーにとって体は、数億円の年俸を稼ぐためのまさに宝。それを任せられるトレーナーの責任も重い。
キャンプでは「一番下っ端から」。
陸上のアメリカ代表、WBCの優勝チーム、そしてメジャーリーグへの就職。順風満帆のキャリアに見えるけれど、何度も壁にぶつかった。アメリカで労働ビザのスポンサーになってくれる雇用先を見つけるのは、並大抵のことではなかった。特にリーマンショックの後には、外国人の雇用に二の足を踏む大学や組織も多かった。
北京五輪、ロンドン五輪でもほろ苦い思いを味わっている。アスレチックトレーナーとして名を連ねたが、米国五輪委員会の規定で外国籍のスタッフにはパスが出ないため、選手村やトラックに入ることができなかった。
最終調整の事前合宿で選手のケアをするグループに回ったが、自分を頼ってくれる選手を大事な現場でケアできない悔しさは大きかった。だからこそ、外国籍のスタッフ加入が認められたリオ五輪では、全力で仕事を全うした。
日本人、そして女性という不利にも思える要素もプラスにし、「雇いたい」と思わせる知識と技術を身につけた。
ダイヤモンドバックスはすでにキャンプが始まり、谷沢も新天地での仕事を開始した。本人が言うように「一番下っ端からのスタート」で、チームの文化を覚えたり、スタッフや選手とのコミュニケーション、野球選手へのケアの知識や技術の習得など覚えるべきこと、すべきことは山のようにある。
チームでは先日、平野佳寿投手が入団会見を行ったが、「自分もたくさんの人にサポートしてもらったので、平野さんが野球に集中できるように、不自由のないようサポートしたい」と約束する。
日本人女性初のトレーナーはどう成長するのか。
「(ヘッドトレーナーの)ケンはアスレチックトレーナーの教育、リーダーシップ、チームワーク、スポーツメディスンのシステム作りにすごく力を入れている。自分の得意な部分をもっと伸ばしつつ、自分の弱みをしっかり克服し、チームの一員としてほかのスタッフたちと一緒に成長していきたい」
谷沢のメジャーリーグ人生はまだスタートを切ったばかり。もっと技術を磨きたい、知識を増やしたい、そういう葛藤を持ち、壁にぶつかるだろう。でもその壁を彼女はきっと乗り越える、いや、叩き壊すかもしれない。
メジャーリーグ日本人女性初のアスレチックトレーナーとして、幼い頃から野球と怪我に向き合ってきた1人として、選手にどう向き合い、どんなトレーナーになっていくのか目が離せない。