スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
ビルバオへ“禁断の移籍”をした選手。
ソシエダは無償でのユニ交換も開始。
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byGetty Images
posted2018/02/07 08:00
イニゴ・マルティネスはロンドン五輪で永井謙佑を倒して退場した選手、というと日本ではわかりやすいだろうか。
「考えが変わることは誰にでもある」
イニゴは15歳からスビエタ(ラ・レアルの練習施設)でプレーしてきた生え抜きの主力選手であるだけでなく、現チームを束ねるキャプテンの1人でもあった。
しかも彼はこれまでアスレティック移籍の噂が生じるたび、はっきりとその可能性を否定してきたのだ。
「敵側に行くことは絶対にない」
そのため今回の移籍に際しては、ネット上でイニゴがそう断言した2014年当時の記事や、クラブのプロモーション企画で「俺に第2のクラブはない」と書かれたシャツを着た写真が皮肉いっぱいに吊し上げられることになった。
こうした批判に対し、当のイニゴはアスレティックの入団会見でこう返している。
「当時はそう考えていた。考えが変わることは誰にでもある」
潔いことこの上ない。恐らく本当にそうだったのだろう。
彼の地元オンダロアはビルバオよりサン・セバスティアンに近いが、所属はビスカヤ県で、家族の大半はアスレティックファンだという。ラ・レアル入団前にはアスレティックのテストも受けていたというし、元々抱いていたアスレティック愛を隠していただけなのかもしれない。
チームが15位に沈んでいるタイミングも悪かった。
それにアスレティックがイニゴの獲得を決断したのは、アイメリック・ラポルテをマンチェスター・シティに引き抜かれた1月29日のことだった。即決を求められたイニゴにとっても難しい選択だったことは想像に難くない。
とはいえ、ファンは納得できないだろう。
まずタイミングが最悪だ。チームが4連敗中で15位に沈んでいるシーズンの半ばに、それも移籍市場が閉まる直前になって交渉の余地を与えることなく一方的に契約を解除すれば、クラブに多大な迷惑がかかるのは目に見えている。
しかも移籍先がチャンピオンズリーグ常連クラスのビッグクラブであればまだしも、アスレティックとラ・レアルの間にレベルの差はない。