スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
ビルバオへ“禁断の移籍”をした選手。
ソシエダは無償でのユニ交換も開始。
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byGetty Images
posted2018/02/07 08:00
イニゴ・マルティネスはロンドン五輪で永井謙佑を倒して退場した選手、というと日本ではわかりやすいだろうか。
「もう過去」としてクラブはユニフォーム交換を提案。
他に選択肢がないのならともかく、イニゴはほんの半年前にバルサやインテル、マンチェスター・シティなどが獲得を検討していた選手である。あと半年待てば円満に地元クラブを退団し、より上を目指せる強豪クラブに移籍できる可能性も十分にあったのだ。
そういった背景を考えれば、今回の移籍は目先の金――現在の倍額となる年俸500万ユーロ――に目が眩んだと思われても仕方がないものだった。
「イニーゴの向上心を知っているだけに、驚いたのはチャンピオンズリーグ優勝を狙うようなチームに行かなかったことだ。彼の周囲からは“断り難いオファーだった”と言われたが、そのようなオファーの前にはこうした決断を下してしまうものなのだろう」
ラ・レアルのホキン・アペリベイ会長は、イニゴの退団を受けた説明会見の場でそう語っていた。その言葉に嫌味や皮肉が込められていたとは思えない。彼の表情はただ悲しみに満ちていたからだ。
2月1日、ラ・レアルは「これはもう過去」の見出しとともに、イニゴの名前が入ったユニフォームを持っているファンに対し、無償で新たなユニフォームと交換することを告知した。
ほんの数日前までみなに愛されていた生え抜き選手が、このような扱いを受けるようになるとは。何とも悲しいことである。