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井上尚弥がスーパーフライ級を卒業。
「ヒリヒリする試合」を求めて。 

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渋谷淳

渋谷淳Jun Shibuya

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photograph byHiroaki Yamaguchi

posted2018/01/05 17:00

井上尚弥がスーパーフライ級を卒業。「ヒリヒリする試合」を求めて。<Number Web> photograph by Hiroaki Yamaguchi

リングの上で、井上尚弥だけが早送りに見えるほどスピードに差があった。彼の器にとって、スーパーフライ級は小さすぎたのだ。

IBF王者に統一戦を断られ……。

 大橋は「特に今回は大変だった」とボワイヨに決まるまでの交渉過程を振り返った。当初ターゲットにしていたのはIBF王者のジェルウィン・アンカハス(フィリピン)。年末の興行ということもあり、統一戦というビッグマッチを実現しようとしていた。

 アンカハス陣営とはこれまでに何度かやり取りし、「日本に行く」という内諾を得たこともあった。「今回こそ」というのが大橋の胸の内だったが、最終的にこのオファーを断られてしまう。

 アンカハスは井上との試合を蹴り、11月に英国で防衛戦を行った。関係者によると、英国に遠征して得られたファイトマネーよりも、大橋サイドが提示した条件のほうがかなり高額だったという。

 それでもなお、アンカハス陣営が井上との統一戦に二の足を踏んだのは、「もう少し勝たせて商品価値をさらに上げ、それから本当の勝負をしたいのだろう」という陣営の思惑に違いない。

スーパーフライ級で満足した試合はナルバエス戦だけ。

 困った大橋がかたっぱしから声をかけ、ようやく見つかったのがボワイヨだった。以前にフェイスブックを通して売り込みがあったことが縁で、大橋が翻訳ソフトを使って直接やり取りし、なんとか決まるという綱渡りの交渉だった。

 こうした経緯を踏まえれば、日本のファンはボワイヨに「本当によく挑戦してくれた」とお礼を言わなければならないのだろう。

「スーパーフライ級で満足できるような試合は、残念だけど獲った試合(ナルバエス戦)くらいしかなかった。来年はバンタム級でワクワクするような試合がしたい」

 こうしてスーパーフライ級に別れを告げた井上にとって、'17年はモチベーションの上下が激しい1年だった。なかなか好敵手との対戦に恵まれない中、3月まで気持ちを支えてくれたのが、ロマゴンことローマン・ゴンサレス(ニカラグア)の存在だった。

【次ページ】 ロマゴン神話が崩壊したことで、井上は落胆。

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