“あと一歩”の兄と代表漏れの弟、それぞれの葛藤。

　勇人は「自分がJ1に戻す」と一度離れた千葉に戻ったが、毎年のように“あと一歩”のところで敗れ去った。一方の寿人は広島のエースとしてタイトルを勝ち取り、代表への待望論も巻き起こった。勇人が言う。

「いつまで経ってもJ1昇格という目標を達成できずもがいている。その一方で、寿人は着々と結果を残し続けている。自分が決断したことに後悔はないんですけど、やっぱり、少しずつ追い詰められていく感じはあります」

　しかし寿人にも、葛藤があった。

「息子に言われたんですよ。『パパは身長が低いから代表に入れないんでしょ？』って。ショックでしたね。でも、代表については達観しているところもあるんです。チームのために全力を尽くして、結果を残して、それでも評価されないなら仕方ない。何を言っても変わることじゃないので」

冷静な寿人の言葉と姿に、勇人は憤った。

　'12年秋の欧州遠征はオフ中の急な招集だった。しかしたった1分の出場機会も与えられず、寿人は帰国の途に就いた。呼ばれて食事をともにした勇人は、努めて冷静に「仕方がない」と語る弟の姿を見て憤った。

「なんで使われなかったのか討論しましたよ。アイツは冷静でした。でも、自分に言わせれば最悪です。あれだけの結果を残した選手が、どうして使われないのか」

　父に聞いた。どうして寿人は代表に呼ばれないのか。

「俺が監督だったら選ばないですよ。だって、代表のサッカーに合わねえもん。こんなこと言ったら、また怒られちゃうね（笑）」

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