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佐藤勇人&寿人は双子で「親友」。
性格は正反対、サッカー愛は同じ。
text by
細江克弥Katsuya Hosoe
photograph byRyoukan Matsui
posted2017/11/25 11:30
2012年に流した涙から5年。勇人と寿人はJ1昇格プレーオフという舞台で激突することになった。
「遠距離恋愛してるみたいで、ちょっと気持ち悪い」
ただ、お互いを「兄弟」という感覚で見たことはない。勇人が言う。
「生まれてから一度も、自分が兄だと思ったことがないんですよ。兄弟じゃなくて、親友という感覚ですかね。見栄もカッコつけも一切ない。誰にも見せられない素の自分を寿人には見せられますから。親友以上、家族以上……それって何て言うんですかね? 言葉で表現できない存在って言うのかな」
寿人の言葉もシンクロする。
「一番適切な表現は、やっぱり親友なのかな。僕にとって勇人は子どもの頃からずっと頼りになるキャプテンで、ライバル心を持ったこともない。特に最近は、今までで一番仲がいい時期なんじゃないかな。千葉と広島で離れているので寂しいですよ。遠距離恋愛してるみたいで、ちょっと気持ち悪いですよね」
何でも先にやる寿人、後からついて行く勇人。
1982年3月12日、双子の兄弟は埼玉県春日部市に生を受けた。
職場で吉報を耳にした父・政人は、双子の誕生が嬉しくて泣いた。仕事帰りに薬局で2人分のミルクを買い、帰宅したら風呂に入れるという1日の流れは日々の生活に充実感をもたらし、2人の成長を見守る楽しみは2人を同時に育てる大変さをはるかに上回った。可愛くて可愛くて、仕方がなかった。
2人の性格は、父が気付いた時にはすでに正反対だった。
「何でも先にやるのが寿人。後からついて行くのが勇人。逆のイメージがあるでしょ? でも違うんですよ。サッカーを始めたのも寿人が先。こっちはいつも、こっちの後を追い掛けていく感じでね」
それぞれの写真を指しながら、父は四半世紀ほど前の記憶を楽しそうに呼び起こす。
性格の違いは日常生活の行動パターンにもよく表れていた。買い物に行けば寿人は欲しいものを衝動的に買い、勇人は他と見比べてから慎重に買う。家族揃ってのバーベキューでは、誰よりも先に箸を伸ばしてツマミ食いする寿人を見て、勇人が「みんなで一緒に食べるんだ!」と怒った。父、兄、弟、妹の4人で近所のグラウンドに繰り出せばシュートを打つのはいつも寿人で、勇人はパサーに、父はGKに、妹は球拾いに専念する。寿人はただひたすらに「パスを出せ」と要求し、言われるままパスを出し続ける勇人は、時にイジけて泣きながら家路に就いた。