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佐藤勇人&寿人は双子で「親友」。
性格は正反対、サッカー愛は同じ。
posted2017/11/25 11:30
text by
細江克弥Katsuya Hosoe
photograph by
Ryoukan Matsui
双子として生まれ、同じクラブでプロデビュー。揃って代表戦のピッチに立った。
しかし今、2人は明と暗に分かれている。それでも彼らは常に支え合い、
遠く離れていてもその絆が絶えることは決してなかった――。
サッカーに導かれた兄弟の知られざる物語。
11月26日開催のJ1昇格プレーオフ準決勝、
名古屋グランパスvs.ジェフユナイテッド千葉を前に、
Number843号(2013年12月12日発売)より全文公開します!
2012年11月、30歳にもなる2人の男が揃いも揃って泣いた。
2人は双子だが、流したのは同じ涙ではない。兄の佐藤勇人は悔し泣き。弟の寿人は嬉し泣き。ジェフユナイテッド千葉の勇人は3季連続でJ1昇格を逃した悲劇の渦中で、サンフレッチェ広島の寿人は悲願のJ1初制覇を成し遂げた歓喜の輪の中で、それぞれの素直な感情に従って涙をこぼした。11月23日には勇人、翌24日には寿人の泣き顔がヤフーニュースのトップを飾り、2人の明と暗は残酷なほど鮮やかに、くっきりと分かれた。
人生ってすげーな。
そう思いながら勇人は、「過去最高」の苦しみに耐えかねてどこまでも落ちた。
「誰にも会いたくなかったし、誰とも話したくなかった。なんで負けたんだろう。なんで俺はJ1に上がれないんだろうって、ずっとそんなことばかり考えていました」
「再来年はJ1の舞台で兄弟対決ができることを……」
会わなくても、話さなくても気持ちを察することはできる。しかしさすがの寿人も、今回ばかりはどんな言葉を掛ければいいのか分からなかった。メールを送ったが、それだけでは足りない。だから数日後、Jリーグアウォーズの壇上で素直な気持ちを言葉にした。
「兄の勇人は、子どもの頃から僕のシュート練習に付き合ってくれました。そのおかげで今の僕があると思います。来季、千葉は残念ながらJ2で戦うこととなりましたが、再来年はJ1の舞台で兄弟対決ができることを願っています」
その言葉が、左膝半月板の手術を終えたばかりの勇人を奮い立たせた。
「ベッドの上にいたので、知人から聞きました。嬉しかったし、このままじゃダメだ、寿人に追いつかなきゃって思いましたね」
プロの世界に飛び込んでから14年、サッカーを始めてから25年、いや生まれてからずっと、2人は声を掛け合い、お互いの存在を発奮材料として支え合ってきた。勇人がサッカーに嫌気が差した時も、寿人がJ2降格の現実に直面した時も、勇人が移籍を決断する時も、寿人が代表で不遇をかこった時もそう。兄は弟にとって、弟は兄にとって無二の理解者だった。