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佐藤勇人&寿人は双子で「親友」。
性格は正反対、サッカー愛は同じ。
text by
細江克弥Katsuya Hosoe
photograph byRyoukan Matsui
posted2017/11/25 11:30
2012年に流した涙から5年。勇人と寿人はJ1昇格プレーオフという舞台で激突することになった。
高校で、勇人はやりたいことが増えてしまった。
それからプロになるまでの間、寿人は1度サッカーを辞めようと思い、勇人は2度、実際にサッカーを辞めた。勇人が振り返る。
「ジュニアユースはレベルが高すぎてショックでしたね。自分は『なぜ出られないのか』を冷静に考えるタイプだけど、寿人は違う。FWとしては背が低いから使われないんだってイライラしていて、突然『サッカーを辞める』って言い始めた。アイツがそう言ったのはそれが最初で最後ですね」
しかしこの時に覚えた悔しさは、駆け引きの巧さでゴールを奪う寿人のプレースタイルを確立させた。ストライカーとしてのポテンシャルを覚醒させた寿人は、U─16日本代表に選出されるなど次第に頭角を現す。しかし今度は、勇人が宣言さえせずにサッカーを辞めた。寿人が振り返る。
「高校生になって、勇人はやりたいこと、できることが一気に増えちゃったんですよね。僕はサッカーサッカーサッカー、勇人はサッカーも遊びも友だちも、という感じで違う世界に行ってしまった。アイツは昔から女の子にモテましたからね。僕はデートすらしたことがなかったのに(笑)」
寿人は「コソコソと」デート、勇人は日焼けサロン。
父の記憶が確かなら、最後の一言は嘘だ。寿人はこの頃ある女性と出会い、「コソコソと」デートを重ね、やがてその人と結婚した。
練習場ではなく日焼けサロンに通うようになった勇人は、寿人が練習から帰ると6畳の相部屋で大音量の音楽を流していた。堪りかねた寿人は正式に“家出”を提案し、高校2年の1年間は練習場の近くにあった祖母の家に、高校3年からはクラブの寮に住んだ。勇人に対する複雑な気持ちを抱えながら、自分の道を突き進むための決断だった。
「勇人がサッカーから離れるのは寂しかったし、アイツの実力を誰よりも分かっていたので『もったいないな』と思いました。僕はサッカーのことだけ。うまくならなきゃ生き残れないという思いが強かったので」