プロ野球亭日乗BACK NUMBER
桑原将志を決して逃げさせなかった。
ラミレス監督の1番固定は愛と期待だ。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byHideki Sugiyama
posted2017/11/10 11:30
いわゆる“逆シリーズ男”になりかけながらも、最後まで逞しく戦った桑原。この経験は必ずや、来季に生きる。
本当に勝負できるチームへの青写真が隠されている。
だが、ラミレス監督は、その後も頑なに「1番・桑原」を動かすことはなかった。
「クワハラが出塁して、そこから点を取っていくのがウチの攻撃パターンだ」
いきなり3連敗した直後の会見で、打順の入れ替えを聞かれたラミレス監督はこう答えている。後のないこの局面でも、あくまで「1番・桑原」へのこだわりを口にしている。
思い起こすとラミレス監督は、シリーズ開幕前からずっとこの言葉を繰り返し、そしてこの後も言い続けた。そして実際に4戦以降もトップバッターは不動だった。
その事実を見逃すことができない。
なぜならそこにラミレス監督の描く、本当に勝負のできるチームへの青写真が隠されているように思えるからである。
我慢して、我慢して育てた1番打者だった。
とにかく今季の桑原は、ラミレス監督が我慢して、我慢して育てた1番打者だった。
開幕直後の3、4月は打率が2割1分台に低迷したが、それでもずっと1番を打たせ続けた。その我慢に応えて6月には月間3割3厘を打ち、7月には3割8分9厘と爆発してチームの勢いに拍車をかけた。ただ、そこから徐々に失速して最後の9、10月の打率は2割1分3厘まで落ちて、シーズントータルの成績は打率2割6分9厘で本塁打13本、出塁率は3割3分2厘でリーグ19位。よくやったが、まだまだ満足できる数字ではなかったはずだ。
「僕の持ち味は泥臭さしかないですから。とにかく泥臭くやるしかない」
絶不調のシリーズ。第3戦が終わった横浜スタジアムの駐車場で報道陣に囲まれた桑原はこう語った。
決して才能溢れる、というタイプではない。チーム内ではいじられキャラで、プレーで見せる溌剌さとは裏腹に、スランプには考え込み、内に籠るタイプでもある。それでもとにかく練習で技術を磨き、1年間、1番打者として働き続けてきた。とにかく前を見続けられる。その姿が苦しいときのチームに勇気を与えられる。だからこそ桑原は特別な存在として歴代監督が認めるのである。