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DeNA大健闘を象徴する“S”の意味。
「スーパー筒香くん」と星への願い。
posted2017/11/09 17:00
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph by
Naoki Sanuki
今年の日本シリーズは「格差」がテーマだった。平均年俸の1位と12位(最下位)。実績も、経験も、選手層も、あらゆる面で差のあった両チームの対戦が予想に反して、白熱していく。3連敗したDeNAが崖っぷちからの2連勝で王者を逆に追い詰めていく。格差を埋めたものとは何だったのか。
個人的にはその要因が表れていたのはハマスタでの第5戦だったと思う。このシリーズで、先制を許したベイスターズが唯一、逆転勝ちしたゲームの主役は筒香嘉智だった。力でねじ伏せにきた相手先発バンデンハークから逆転2ランを放ち、再びひっくり返された後には同点タイムリーを打って、再逆転につなげた。まさに独り舞台だった。
前日の第4戦、濱口遥大の8回1死までのノーヒットピッチングによって敗れた時点では、ソフトバンクにはまだ余裕が見られた。パ・リーグ王者を本当に焦らせ、シリーズを緊迫させたのはこの夜だったと思う。
「スーパー筒香くん」に巻き返しの理由を垣間見た。
その第5戦から一夜明けた11月3日、日刊スポーツの一面にこんな見出しが載っていた。
「スーパー筒香くん」
筒香と信頼関係を築いている記者の記事によれば、彼の胸にあるネックレスのペンダントトップはアルファベットの「S」だという。イニシャルの「T」でも「Y」でもない。そこに込められた思いを聞くと、「スーパー筒香くんの『S』です」と答えたという。
その記事を読んで、なぜか、DeNA巻き返しの理由を垣間見たような気がした。
ベイスターズの主砲が表参道ヒルズにあるひときわ目立つメンズ・ジュエリーショップにやってきたのは8月末のことだった。スポーツTシャツにリュックというラフなスタイルだったが、店長はその巨体ですぐに誰なのかわかったという。
黙ってショーケースを見ていた筒香がしばらくして、あるネックレスの、アルファベットをデザインしたペンダントヘッドについて聞いてきた。
「TかYのものありますか?」