オフサイド・トリップBACK NUMBER
ハリルが中盤で進めるMF観の革命。
組み立て役と守備役、分業の終わり。
text by
田邊雅之Masayuki Tanabe
photograph byAsami Enomoto
posted2017/11/09 11:50
長谷部誠という選手を一言で表現するのは難しい。しかし、彼が日本代表に欠かせない存在なことは紛れもない事実である。
ミッドフィルダーって、どういう選手のこと?
「ポスト長谷部時代」のチームづくりに関しては、別の問題もある。日本代表の中盤そのもの、ひいては「ミッドフィルダー」をどのようなイメージで捉えるかだ。
たとえば4-2-3-1で2枚のボランチを配置する場合には、パスを散らす「組み立て役」と、相手の攻撃の芽を摘む「守備的ミッドフィルダー」を組み合わせるべきだとされる。4-3-3で中盤の底に1人選手を配置する場合には、なおさらボール奪取力に長けた人材を起用すべきだという意見が強くなる。
たしかに2000年以降の世界のサッカー界では、元フランス代表のマケレレに象徴されるような「潰し屋」が、中盤のスペシャリストとして大きな注目を集めるようにもなってきた。
だが4-3-3で守備的MFを中盤の底に置くのは、あくまでもバリエーションの1つであって定石ではない。ヨーロッパの試合などでは、守備的MFがインサイドハーフに起用されることも珍しくないし、ハリルホジッチ監督も同じような策を執ったことがある。
それがワールドカップ予選の大一番となったUAE戦だった。この試合では長谷部が故障で欠場したために、中盤のトライアングルを山口蛍、今野泰幸、香川真司で構成。この時インサイドハーフで起用された今野は、高い位置から守備のスクリーンを張っただけでなく、自ら得点も決めて絶賛されている。
組み立て役と守備的MFの二択、ではない。
また状況によっては3ボランチにスイッチすることも考えられるが、フォーメーションの別を問わず、中盤の選手を「組み立て役」か「守備的MF」の二分法で捉える発想は、別の問題を生む。
分業的な発想が強くなりすぎると、ボールを奪ってからフィードするまでの流れが途切れ、カウンターのチャンスをふいにするケースが出てきてしまうし、最近のサッカー界では、中盤が1つのユニットとして機能することがますます重要になってきている。
もちろんどの選手にも基本の役割は与えられているが、戦術が進化し、身体能力が上がり、ゲームのテンポが早くなった結果、誰もが攻撃や守備の起点になることが求められてきている。その方がオプションは増えるし、緩急やメリハリもつけやすくなるからだ。
現に世界のトップレベルでは、ボール奪取能力に優れ、ビルドアップの起点にもなることができ、攻撃参加でも存在感を発揮するような中盤の選手が登場してきた。マケレレのようなスペシャリストが求められる一方で、従来よりもスケールの大きい、そして幅広い役割をこなせる「ミッドフィルダー」が、再び脚光を浴び始めているのである。