オフサイド・トリップBACK NUMBER
ハリルが中盤で進めるMF観の革命。
組み立て役と守備役、分業の終わり。
text by
田邊雅之Masayuki Tanabe
photograph byAsami Enomoto
posted2017/11/09 11:50
長谷部誠という選手を一言で表現するのは難しい。しかし、彼が日本代表に欠かせない存在なことは紛れもない事実である。
そんな都合のいい選手は……何人も存在する。
そんな都合のいい選手がいるのかと訝られる方は、日本が対戦するブラジル代表の選手、フェルナンジーニョに注目してもらってもいい。彼が所属するマンチェスター・シティのグアルディオラ監督は、通常は中盤の底を務める彼のポリバレント性を次のように評している。
「フェルナンジーニョは(GK以外の)10種類のポジションをこなせると思う。クイックで、足が速く、非常に賢く、アグレッシブ。そして空中戦にも強い。彼はセンターバックもできる」
いや、フェルナンジーニョなどの例を出さずとも、日本にもポテンシャルを秘めた逸材は存在する。
遠藤航が再び招集されたのは、守備に強く、攻撃の起点になることもでき、自らもシュートを狙える逸材として、ハリルホジッチ監督が高く買っているからだろう。
山口蛍に対して攻撃参加を口酸っぱく求めてきたのも、同じ理由に基づくものだ。おそらく監督の頭のなかには、イラク戦の劇的な決勝ゴールの残像が焼き付いていたのかもしれない。8月のメンバー発表では、名指しで注文もつけている。
「(山口)蛍には、より攻撃のプレーを見せてもらいたいと思っている。身体的な特徴、テクニックを考えれば、もっとできると思う」
攻撃も守備も、どんなポジションもこなす長谷部。
何より日本代表には、「ポスト長谷部時代」の中盤像を模索していく上で、遠藤航や山口以上に完璧なロールモデルが存在する。他ならぬ長谷部自身である。
彼は守備の職人か? 答えはNoである。ならば攻撃のスペシャリストか? これも答えは否だろう。理由は簡単。攻撃も守備もフレキシブルにこなせる総合的な能力の高さこそが、長谷部誠という選手の魅力であり持ち味だからだ。
長谷部は、ヴォルフスブルク時代には右サイドバックもこなしたし、最近、フランクフルトでは3バックの中央に入り、リベロさえこなすようになった。かつてマガト監督にゴールキーパーまでやらされたケースは参考にならないとしても、年齢と経験を重ねれば重ねるほど、オールラウンドな「ミッドフィルダー」としての枠を広げつつある。
「ポスト遠藤」時代から「ポスト長谷部」時代へ。サッカー日本代表は中盤においても、大きな変貌を遂げようとしている。果たして我々は、新たな中盤のフォーマットを見ることができるのか。熾烈なポジション争いを勝ち抜き、新たな旗手としての予兆を感じさせてくれるのは、どの選手になるのだろうか?
ブラジル戦とベルギー戦では、そんなあたりにも注目したいと思う。「中盤を制するものは試合を制する」という言葉があるように、日本代表の中盤問題は、ロシア大会の先に続く、日本サッカー界の未来にも直結してくるのだから。