オフサイド・トリップBACK NUMBER
ハリルが中盤で進めるMF観の革命。
組み立て役と守備役、分業の終わり。
posted2017/11/09 11:50
text by
田邊雅之Masayuki Tanabe
photograph by
Asami Enomoto
世界2位のブラジル、そして5位のベルギー。
ロシア大会を視野に入れた、日本代表の強化試合が目前に迫ってきた。今回の2連戦は香川真司、本田圭佑、そして岡崎慎司という主力選手が招集されなかった点でも波紋を呼んでいるが、ハリルホジッチ監督が取り組んできた日本代表の改革には、実は壮大なテーマがもうひとつある。
「ポスト遠藤保仁時代」の中盤を、いかに構築するかというという課題だ。
たとえば日本サッカー協会の前技術委員長を務めていた霜田正浩氏は、今年5月のロングインタビューの際に、その理由を次のように解説している。
「ガンバ大阪の遠藤保仁は素晴らしいゲームメイカーで、日本代表にも長年貢献してきた選手だ。ボールを細かく動かしながらポゼッションを高め、きれいなコンビネーションで崩していくスタイルには、独特の魅力もある。
だがひとつのスタイルだけで、ワールドカップの本大会で強豪に通用するとは限らない。また特定の選手にビルドアップを頼りすぎるのも得策ではない。むしろ日本代表に求められているのは、遅攻だけではなくいかに一瞬のスキを突いて縦方向に速く仕掛けるか。あるいは起点になれる選手や、ビルドアップのルートをどれだけ多く確保して、ユニットとして攻撃を仕掛けていけるかという発想だ」
結果、遠藤は日本代表を離れ、現在のチームでは長谷部誠が中盤の舵取り役を担うことになった。長谷部が周囲の期待に十二分に応えていることは、最近の試合を見ても明らかだ。大舞台になればなるほど、日本代表の中盤に欠かせぬ存在であることが浮き彫りになるし、精神的な支柱としてもチームを牽引し続けている。
長谷部1人にかかっている負担は極めて大きい。
とはいえ「長谷部時代」に移行した中盤に、まったく問題がないわけではない。
まずは攻守における負担の大きさだ。
遠藤とコンビを組んでいた頃、長谷部の役割はいい意味でもっと限定されていた。遠藤が細かなパス交換を繰り返しながらリズムを刻み、相手が寄ってきたところで長短のパスを供給して、一気に攻撃のスイッチを入れる。その傍らで長谷部は、豊富な運動量と献身的な姿勢で広大なスペースをケアする、というのが基本になっていた。
だが遠藤が代表から引退したことによって、長谷部の役割は一気に増大。
相手の攻撃の芽をディフェンスラインの直前で確実に積むだけでなく、攻撃を組み立てる起点や、中盤全体をオーガナイズしていくまとめ役にもならなければならない。かつて遠藤にかかっていた負担よりも、現在長谷部にかかっている負担のほうが大きいのではないかとさえ思えるほどだ。