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「去年はお通夜みたいだったけど」
中央大学と2年生主将、箱根へ帰還。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byKyodo News
posted2017/10/16 17:00
下降線に入った名門を立て直すことは、想像以上に難しい。中央大学は、その逆境を跳ね除けて箱根に帰ってきたのだ。
「戦えない状況を誰が作っているか」という厳しい言葉。
走り終えた舟津は、泣いていた。しかし、それは満足の涙だった。
「59分台でいい走りができました。夏やってきたことが間違いじゃなかったという涙です。うれしかったです」
距離適性を考えれば、舟津は20km以上の箱根ディスタンスよりも、トラックレースの方が向いているランナーだろう。
全日本インカレでは1500mで優勝。将来は、トラックのランナーとして日本代表になることを目指している。その意味で59分台の結果は十分すぎるほどだし、主将の役割を十分に果たしたといえる。
それでも、今年も山あり谷ありの競技生活だった。春先にはアメリカでトレーニングしたが、帰国後にアメリカと日本の競技環境のギャップを埋めるのに苦労した。トラックで結果が残せず、5月に行われた関東インカレでは5000mで14分47秒56かかっての24着。藤原正和監督からは厳しい言葉が飛んだ。
「持っているものを何も出せていません。全く戦えていないのが今のチーム状況であること、それを誰が作り出しているのか、よく考えてほしいです」
突き放したような言葉だ。
キャプテンとしてより、自分のために走ること。
しかし夏場になって舟津は、発想を転換する。
「これまではキャプテンとして走っていたような感じでした。そこから原点に立ち返りました。自分のために走ろうと」
そこから結果が反転し始める。全日本インカレで優勝、そして箱根駅伝予選会でも充実の走りを見せた。予選会では多くのカメラが舟津を取り巻いたが、その状況に関しても前向きに捉えている。
「ランナーは注目を集めてナンボだと思っています。たくさんの方々に見ていただけるなかで結果を残していきたいです」
なんともたくましいではないか。
厳しい言葉をかけていた藤原監督も、この日の舟津を評価した。
「この1年苦しかったですが、舟津はよく走ってくれました。ようやく、『能力』と『努力』が握手し始めた感じです」