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「JK感」の無邪気さの裏側で……。
池江璃花子、弱さと向き合える強さ。
text by
松本宣昭Yoshiaki Matsumoto
photograph byTakao Fujita
posted2017/10/16 08:00
周囲にはハードに見えるレースが連続しても、充実感溢れる表情の池江。ひと泳ぎごとに成長を実感しているのだ。
「弱さ」を明るく語れる、池江の持つ「強さ」。
自分の弱い部分についても、彼女は明るく語る。リオ五輪で計12レースに出場し、体力的な不安を感じたときには「そんなに深刻な問題じゃない。重く捉えないで、軽い気持ちでいよう」と切り替えられる。
スイマーは、自分が置かれた状況を「重く」捉え、頭で考えれば考えるほど、体に余計な力が入る。体が力めば力むほど、水中では前に進まない。では、なぜ池江は大舞台でも「軽い気持ち」でいられるのか。
「水泳って、ほかのどんなスポーツよりもシンプルで、わかりやすい競技。だから私にとって楽しいんです。コースが区切られていて、全員が平等な環境で競える。観ていても、やっていても楽しいんですよね。よく私は負けず嫌いなタイプに見られるんですけど、自分ではそれほどじゃない、普通だと思っています。だって、どんな人でも自分が得意としているものとか、一番力を入れていることだったら、誰にも負けたくないと思いますよね。それと一緒で、私がバタフライと自由形に関して負けたくないと思うのは、自然なことかなって」
池江は、幼い頃から眠る前にイメージトレーニングをすることが日課になっている。招集所への集合から始まり、レースを泳ぎ、プールサイドでインタビューを受けるまで。今ではどれだけ眠くても、自然に頭の中でレースが始まるのだそうだ。
「自信を持ってスタート台に上れたらベストかな」
ならば、2020年の東京五輪に臨む自分の姿を、どうイメージするか。
「もう完全に自信で溢れていたいですね。ここまで自分はやってきたんだっていう自信を持って、スタート台に上れたら一番ベストかなって。リオのときは、やっぱり世界ランキングから見ても、私はトップとは遠い位置にいたので、勝つか負けるかっていうよりは、自分の記録との勝負だったと思うんです。確かにレース直後は、あとちょっとでメダルに届いたんだと知って、すごく悔しかった。でも、今ではメダルを獲れなかったことをポジティブに捉えています。東京では、たぶん記録よりも順位になってくる。特に自由形やバタフライは、世界的に『日本のレベルは低い』と思われています。それを東京で、というか、これからどんどんレベルを上げて、絶対的な自信を持って臨みたいですね」
3年後、自信に満ちた池江がスタートを切り、ラスト50mで息継ぎのために顔を上げる。そのとき、きっと彼女の耳には今まで聞いたこともないような大音量の声援が届くはずだ。
(Number931号『東京へ。池江璃花子「東京では、自信に溢れていたいです」』より)