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「JK感」の無邪気さの裏側で……。
池江璃花子、弱さと向き合える強さ。
posted2017/10/16 08:00
text by
松本宣昭Yoshiaki Matsumoto
photograph by
Takao Fujita
周囲の喧騒もそのまま力に変えて、少女は駆け足で未来へと歩を進めている。
Number931号(7月13日発売)での特集を全文掲載します!
17歳にして、リレーを合わせて計14種目の日本記録を持つ。そんな天才スイマーと会う前に、1つの仮説を立ててみた。
競泳とは、すべてのスポーツの中で、最も孤独な競技である――。
もちろん距離を考えれば、例えばマラソンのほうが体力的につらいはず。ただ、水の中に入れば声援は聞こえない。競泳こそ、究極の「自分との戦い」なのではないか。
目の前に座る池江璃花子に、この仮説をぶつけてみたら、柔らかい笑顔とともにあっさりと否定されてしまった。
「確かに50mのレースだと、ほとんど息継ぎをしないので、声援はあまり聞こえません。でも、200mなんかになると、聞こえることがあるんです。ラスト50mできついなって思ったとき、息継ぎで顔を上げた瞬間に、聞こえるんですよ」
「この声援を自分のものにしようと思って」
リオデジャネイロ五輪への出場権を懸けた2016年4月の日本選手権、200m自由形のレースがそうだった。五十嵐千尋(日体大)とのデッドヒートが続くまま、150mのターンを終えた直後だった。
「すごい声援が聞こえたんです。レース前から、周囲は千尋さんと私のどっちが勝つかという雰囲気でした。もちろん私は絶対に負けたくないって思っていたし、千尋さんも私には負けたくないと思っていたはずです。あの声援には、千尋さんを応援するものも含まれていたと思います。でも、この声援を自分のものにしようと思って。体はきついけど、みんながこんなに応援してくれているから、絶対に負けないと思ったんですよね」
結果は、ラストスパートをかけた池江が高校新記録で勝利。五十嵐とともに800mリレーの五輪出場権を獲得した。
今年2月からの、フランス遠征での200m自由形でも、同様の体験をした。隣は、リオ五輪で3つの金メダルを獲得したカティンカ・ホッスー(ハンガリー)だった。
「ホッスー選手の旦那さんの応援が、ものすごいんです。声も特徴的で、現地のちびっ子や、選手たちも真似するくらいで。レース中、その声が聞こえたんですよ。もちろんホッスー選手への声援なんですけど、私は自分のことを応援していると思い込むようにしました。ホッスー選手の旦那さんまで私のことを応援してくれているんだから、絶対に負けないって」
ここでも池江はホッスーを振り切り、1位でゴールにタッチした。