松山英樹、勝負を決める108mmBACK NUMBER
松山英樹と王者トーマスの共通点。
評価、賛辞よりも大切なものとは。
text by
舩越園子Sonoko Funakoshi
photograph bySonoko Funakoshi
posted2017/09/26 17:00
松山のショットには多くのギャラリーが集まる。周囲の期待値は高まる一方だが、何より優先するのは自らとの戦いだ。
今季残した成績は素晴らしい向上だと思うけど。
今季の松山は、序盤にHSBCチャンピオンズで優勝し、日本人初の世界選手権制覇を果たした。2月にはフェニックス・オープンで大会2連覇を達成。全米オープンでは2位になり、8月にはブリヂストン招待で快勝。その翌週、全米プロでメジャー初優勝に迫り、惜敗して悔し涙を流した。
メジャー優勝には惜しくも届かなかったが、世界選手権2勝を含む年間3勝、通算5勝を達成し、世界ランキングではあと一歩でナンバー1というところまで行った。
「それは、素晴らしい向上だったと思うし、周囲もそう評価しているけど」
そんなふうに投げかけても、松山は「(周囲が)そうだったら、そうなんじゃないですか」と、苛立ちを露わにする。それは、自身の満足からはほど遠いことへの悔しさの裏返し。
松山の反応は、年間王者に輝いて10ミリオンのボーナスを手に入れても、72ホール目のバーディーパットがわずかにカップをそれ、目指していたツアー選手権優勝にわずかに手が届かず、「勝てなかった」「勝ちたかった」と怒っていたトーマスの反応と通じるものがあった。
自分自身の夢と目標の達成こそが満足への道。
評価より、賛辞より、自分自身の夢と目標の達成こそが満足への道。そこは、トーマスも、松山も、トッププレーヤーなら誰にも共通する“こだわり”であろう。
トーマスは今季序盤にマレーシアでCIMBクラシックを制したときから「ツアー選手権で優勝し、フェデックスカップも取る」を今年のゴールに掲げていた。
「4つのメジャーに照準を合わせるのと同じように、僕はプレーオフ・シリーズで調子がピークになるよう調整してきた」と言い切っていた。
それほど目指し、それほど備え、それでも勝利を逃したことは、トーマス自身にとっては、もはや今季の好成績も世間の評価も何もかもが吹っ飛ぶほど悔しい出来事だったということなのだろう。
そして、松山に見られた反応も、トーマスのそれとよく似ていた。世間が素晴らしいと言うのなら、そうなんだろう。だが全米プロで惜敗後、プレーオフでは毎週毎日「いい感じでいけそうと思ってスタートしたけど」、蓋を開けてみればショットは曲がった。パットも「毎日、自信を持ってスタートしても、3ホールぐらいで自信をなくす」ことの繰り返し。
その結果、優勝争いからも年間王者争いからも蚊帳の外。世間がどう評価しようとも自分自身では素晴らしいだなんて到底思えないというのが、松山の心情だったように思う。