イチ流に触れてBACK NUMBER
2017年のイチローは“代打の神様”。
一振りに懸けても近づく最多安打。
text by
笹田幸嗣Koji Sasada
photograph byKyodo News
posted2017/09/14 11:00
8月22日のフィリーズ戦では7回に代打で出場し、勝ち越しの3ラン本塁打を放った。
栄光と賞賛を手にした43歳が常に謙虚に向き合う。
昨季は代打での役回りについて「全然慣れない。代打では4回に1回(1本)がいいところ」と語っていたが、今の感覚については「以前とは気持ちはちょっと違うかな」。数字が示す通り、代打でイチローなりのルーティンを築いた感がある。本人が形容を望むか望まないかは別として、“代打の神様”と呼ぶに今はふさわしい。
とは言うものの。
常に先発出場で走攻守に於いてフィールドを駆け回る。それがイチローの求める普遍のプレースタイルであるが、今季は27歳の右翼スタントン、26歳の左翼オズナ、25歳の中堅イエリチのレギュラートリオが怪我もなく素晴らしい成績を収めている。
スタントンは54本塁打、113打点、3番に座るイエリチは常に安定した打撃を見せ、オズナも3割、30本塁打、100打点を上回る。イチローが望むスタメンが極端に少なくなっているのも仕方のないところ。イチロー自身も「今年はこう言う流れなんで」と説明したが、この割り切りは決して簡単な作業ではないはずだ。
選手として頂点に立ち続け、数々の金字塔を築き上げた。栄光と賞賛の両方を手にした43歳が日々ベンチでいつもと同じようにスタンバイする。野球に対して常に謙虚に向き合える。だから、イチローはすごい。
「目標がないより、ある方がいいですよ」
ヤンキースの主将として通算2153安打を放ったマッティングリー監督も賞賛する。
「イチローは素晴らしい選手。彼は野球に敬意を払い、野球をとても大切にしている。彼の姿勢は、周囲の者にその大事さをあらためて思い起こさせる」
「目標がないより、ある方がいいですよ。アプローチしやすい。モチベーションになるわね」
これは代打でのシーズン最多安打28まであと2本に迫った際のイチローの言葉だ。
43歳になっても常に最前線で戦える身体を維持し続け、50歳までの現役を目指し、どんな役回りになろうとも野球と真摯に向き合える。イチローに記録更新のラッシュが毎年ついて回るのは自然の流れなのであろう。