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カズ、ラモスが今も醸す独特の空気。
永井秀樹の引退試合は「今」のために。
posted2017/08/30 08:00
text by
海江田哲朗Tetsuro Kaieda
photograph by
Tetsuro Kaieda
声も、アイコンタクトさえもない。それでもパスは面白いようにつながった。
ラモス瑠偉がボールを止め、左にはたく。三浦知良は前にボールをつける、と見せかけてラモスにリターンパス。するっと抜け出してパスを受けた北澤豪が縦にドリブルを仕掛ける。中央にボールが戻され、ぴたっと足元に収めたのは永井秀樹だった。口元に微笑をたたえ、さて、どうやってゴール前を崩してやろうかと舌なめずりの顔だ。
8月14日、昨季をもって現役を退いた永井(東京ヴェルディユース監督兼GM補佐)の引退試合『OBRIGADO NAGAI』が味の素フィールド西が丘で開催された。
東京VのOBと現役選手で構成される「VERDY LEGENDS」(松木安太郎監督)と、その他Jクラブの往年の名選手を中心とする「J LEGENDS」(釜本邦茂監督)。永井は1993年のJリーグ発足時からプレーし、45歳までピッチに立ち続けた。この日実現した豪華メンバーによる夢の共演は、長く濃密なキャリアの為せる業と言える。
「自然にあの距離感とリズム、テンポが生まれる」
いわゆる花試合だ。激しいボディコンタクトはなく、存分に走れる選手は両チームとも限られる。だが、そこにはボールと人の幸福な関係があった。オールドファンの胸をくすぐる、西が丘に吹いた緑の黄金時代の風。「VERDY LEGENDS」が3-2で勝利を収め、永井は3回ゴールネットを揺らした。
「ラモスさんやカズさんなど、今回のメンバーが集まったのは二十数年前のヴェルディ川崎の頃以来です。一緒にプレーすることはありませんでしたが、久しぶりでも勝手にできちゃうんですよ。自然にあの距離感とリズム、テンポが生まれる。最後に、ヴェルディのすばらしさをもう一度確認できました」
そう語る永井は笑顔で、最後まで涙を見せなかった。