マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
“本塁打の甲子園”はなぜ起きたか。
打球方向でわかるスイングのレベル。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byHideki Sugiyama
posted2017/08/22 07:00
盛岡大付の植田拓。彼もまた、今大会の打高投低を象徴する打者の1人だった。
試合のレベルが上がるほど、打球の方向が変わる。
今の高校野球は、筋力トレーニングやサプリメントの知識と実践が全国にゆきわたり、選手たちの体格と筋力は、かつての高校野球とは比べものにならないほど高まっている。
甲子園でもアーチの乱舞だが、同じようなことが予選でも起こっている。
ならば、甲子園の本塁打と予選の本塁打、いったい何が違うのか?
地方予選開幕当初の本塁打は、左翼手、右翼手の後方からポール際にそのほとんどが吸い込まれる。そして試合を経るごとに、スタンドに吸い込まれていく打球方向がバックスクリーンに近づいていく。つまり、試合を経るごとに“理由”のある本塁打が増えていく。
フルスイングという言葉がさかんに選手の口から発せられるようになったのは、昨年あたりからだろうか。
この夏もその傾向は変わらず、試合を中継するアナウンサーからも、繰り返し「フルスイング!」という絶叫が聞こえてくる。
しかし、いくら背中を叩くほどバットが振れていても、体をのけぞらせて、顔が空のほうに飛んでいるスイングは決してフルスイングではない。
タイミングが合っていればこその、フルスイング。
投球をしっかりと見据え、タイミングを合わせたスイングなら、それは自然とフルスイングになっていて、打球は本人もアッと驚くようなスピードか飛距離を生んで、かなたに飛んでいく。
勝ち進むチームの違いは、フルスイングの理解?
フッと思ったことがある。
予選で消えていくチームと、甲子園に勝ち進めるチームのバッティングの違いとは何か?
もしかすると、このフルスイングの正しい理解と正しい実践がなされているのか、いないのか。
この1点がひどく大きく関わっているように思わせてくれる、この夏の甲子園球児のフルスイングぶりである。