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金本監督は恩師に「よう似とる」。
高代コーチが思い出す、ある逸話。
posted2017/07/27 08:00
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph by
Nanae Suzuki
今、タイガースに渦巻くものは何なのだろうか。
名前を知られたごく数人以外は、まだ実績のない若者たちがスタメン表にもベンチにもならんでいる。首位にいくら突き放されてもその目は死なず、なぜか連日、虎党が甲子園を埋めている。阪神の何が変わったのか。ゲーム差や順位以上に人々が期待しているものの正体は何なのか。それが今特集のテーマだった。
そしてある意味では、監督の金本知憲よりもそれを知っているのはこの人かもしれない。
高代延博ヘッドコーチ。
かつて広島カープに入団したばかりの金本を鍛え上げた鬼コーチであり、日本代表や国内外7球団を渡り歩いたコーチングのプロフェッショナルであり、現在は“超変革”を陰で支える人物である。
年に1度、高代は金本とだけは宴席を共にした。
「僕が言うのはおこがましいけど、監督は自分が野球人生の中で感じたこと、苦労したことを今、選手たちに言っている気がしてならない」
高代は2000年代、中日ドラゴンズのコーチとして、金本が4番を打つ阪神とリーグ優勝を争うライバル関係にあった。コーチになった頃から自軍、他軍問わず、選手と宴席を共にしないというポリシーを持っていたが、毎年、中日と阪神のシーズン最終戦の夜だけはその“禁”を破った。お互いの戦いを終えた夜、金本と食事を共にするのだ。
「高代さん、阪神と中日の差はどこにあると思いますか? 走塁なんですよ」
中日に何度も優勝を阻まれていた金本はその席で必ずと言っていいほど、こう口にしたという。豪快な打撃のイメージが強い男が繊細な部分にこだわる。そこに今、金本がやろうとしていることが見えるという。
それは単に走塁という一部門だけではなく、強く振ること、したたかに守ること。打つ、投げる以外の目に見えない勝負の本質を追求すること。つまりは野球人としての根っこを育てることである。現役時代から金本はタイガースというチームに、どこか、ひ弱さを感じていたからこそだろう。