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サニブラウンを甦らせた女子選手。
「は? 経験のためにロンドン?」
text by
及川彩子Ayako Oikawa
photograph byTakashi Shimizu
posted2017/07/11 17:00
日本選手権では、100m、200mの双方で圧倒的な勝利を見せたサニブラウン。187cmという体格も、可能性の大きさを期待させる。
コーチは「自分のミスだ」と後悔していた。
冷静にレースを振り返り、「練習で250mとか多めに走れば(日本選手権は)大丈夫ですよ」、そう話したが、明らかに元気がなかった。
コーチも原因について逡巡していた。
「練習でもう少し長い距離が必要だったのかな。(他の選手が見えない)8レーンではなく2レーンに入れれば良かったかな。練習パートナー2人と練習も試合も一緒で、緊張感がなかったのも走れなかった理由かもしれない。自分のミスだ」
荷物を片付けると、サニブラウンはコーチと帰路に着いた。2人の背中は明らかに力がなかった。
女子選手のバートレッタを練習パートナーに。
日本選手権まで2週間。「何とかなる」、「何とかしないといけない」という気持ちが交錯する中、レイダーコーチはサニブラウンの練習パートナーを変えた。これまでも練習内容やスケジュール、種目によって15人近くいる選手を組み合わせてきたが、シーズンに入り、サニブラウンは男子スプリント勢と練習することが多くなっていた。しかし、レイダーコーチはサニブラウンと同じく全米選手権を2週間後に控えたバートレッタと組ませた。
バートレッタは前回の北京世界陸上で走幅跳で優勝しているため、今大会はワイルドカード、つまり自動出場権を持っているが、100mでも代表権を目指しており、最終調整でブロック練習などを重点的に行う必要があった。
自己ベスト10秒78でロンドン五輪100m4位のバートレッタは、スタートの飛び出しとパワフルな走りが身上。サニブラウンが全力で挑んでも勝つのはなかなか難しい。手を抜いたら簡単に先を行かれる相手だ。
一緒に練習している際に、サニブラウンは何度か冗談交じりに「僕を置いてロンドンに行かないでね。1人でオランダに残るのは嫌なんで」と口にした。
しかし練習ではイマイチ必死さに欠ける。
のんびりしている弟分にしびれを切らして、バートレッタはこう質問した。
「ハキームはどうして世界陸上に行きたいの? 何がしたいの?」