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錦織圭が予言した杉田祐一の躍進。
28歳、ついに「心の強さと運」が。
text by
井山夏生Natsuo Iyama
photograph byAFLO
posted2017/07/07 07:00
念願のウィンブルドン初勝利を手にした杉田。松岡修造氏の世界ランキング最高位を超えたこともエポックメイキングだ。
選手からの評判が高かった「故障のない体」。
しかし、逆の見方もあった。それが選手間の評判だ。足掛け5年に及んだチャレンジは仲間の選手からは「凄い!」と評価されていた。グランドスラム大会の予選に連続して出場するということは、それだけの地力があり、故障のない体を持っているということ。添田ら周りの選手たちは、杉田が予選を勝ち上がれないことを不思議に思っていた。18度目に勝ち上がったとき、彼らは「これで壁を越えた」と感じた。
実際、杉田の運動能力は他のテニス選手を凌駕するものだった。デ杯合宿では、走る、跳ぶの数値は抜群だったし、サービスのスピードも一番だった。練習マッチで強いのは杉田だった。杉田に足りないものは、自分を信じる「心の強さ」とテニスの神様に愛される「運」だったのかもしれない。
錦織が欠場したバルセロナで、運をつかみ取った。
そして、その2つがいっぺんにやってきたのが今年だ。雌伏のときが長かっただけに爆発力が半端ではなかった。4月のバルセロナ・オープン、杉田は予選決勝で敗れたものの、奇しくも錦織の欠場により本戦へと繰り上がった。ラッキールーザー(本戦初戦に欠員が生じた場合に予選敗退選手を補充するシステム。順番は抽選で決まる)の吉報を受けとったとき、杉田は帰りの空港に向かうところだったという。
この「運」を杉田は逃さなかった。1回戦では地元スペインのトミー・ロブレド、2回戦ではトップ10の常連リシャール・ガスケ(フランス)をフルセットの末に撃破。3回戦では第7シードのパブロ・カレーニョ・ブスタ(スペイン)までストレートで退け、ATP500グレードの大会でベスト8の大躍進を果たす。この時点でランキングを自己最高の73位まで上げた。
運気は落ちない。6月、芝のシーズンに入って挑戦したゲリー・ウェバー・オープンでは予選2回戦で敗れたが、再びラッキールーザーを引き当てて本戦出場。そして1回戦で「プロになった頃からの憧れ」だったロジャー・フェデラーとセンターコートで対戦する。スコアは3-6、1-6だったものの、最初のサービスはラブゲームで取った。これは杉田の心を強くした。