プロレス写真記者の眼BACK NUMBER
棚橋コールが内藤コールに負けた夜。
棚橋弘至、エース完全復活への苦渋。
text by
原悦生Essei Hara
photograph byEssei Hara
posted2017/06/23 08:00
肉体的な復活はまだまだ……という棚橋。怪我の完治を目指しながらの復活劇では、綱渡りの試合が続く。
過去の自分ではなく、未来の自分を見つめていた棚橋。
変わろうとしている時代に、棚橋自らがブレーキを掛けようとしたのか、と私は最初に思った。だが、棚橋の意識は、逆にもっと未来へと飛んでいた――。
今、新日本プロレスの第1試合は楽しい。若手の川人拓来、海野翔太らヤングライオンたちのファイトが新鮮だからだ。棚橋は、そこに目を向けていたのだ。
ファンに見せるためだけではなく、そんな若手レスラーにも「オレが這い上がる姿をしっかり見せてやろう」と、「棚橋弘至がまだ生きている証を、ベルトと共に見せてやろう」と。
棚橋は開き直りにも近い姿勢で、この時、プロレスそのものと改めて対峙したのだ。
試合の途中からだが……内藤が圧倒していたコールを、ほんの少しずつ棚橋サイドにもっていくことができた。
コーナーからのダイブ(ハイフライフロー)では、ちょっとした「たぎりポーズ」で中邑真輔のエネルギーも借りてみた。
そして、最後はテキサス・クローバー・ホールドで内藤にとどめを刺した。
「少し休んでもエースはエースだから」
ベルトそのものは内藤に手荒く扱われたため、短期間の保持だったにもかかわらずヴィンテージ・ワインのラベルのように汚れてくすんでしまっていたが、それを棚橋は大事そうにしっかりと腰に巻きつけていた。
これが十分な復帰でないことは棚橋にもわかっていた。
それでも、棚橋は胸を張った。
「まだ死んでなかったでしょ。棚橋は生きているから、休場明けの横綱が強いように、故障明けのホームランバッターがホームランを打つように、少し休んでもエースはエースだから」