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日本人として、空前絶後の金字塔。
佐藤琢磨、インディ500制覇までの道。
text by
松本浩明Hiroaki Matsumoto
photograph byHiroaki Matsumoto
posted2017/06/09 08:00
インディ500名物、ミルクでの祝福シーン。その昔、レースのスポンサーのひとつが乳業メーカーだったことに由来する。
予選で4位も、琢磨の表情は悔しそうだった。
インディ500が開催される「モータースピードウェイ」は平均時速が230マイル(370km/h)を超えこともある超高速のオーバル(楕円)のコースである。
今年は現役F1チャンピオンのフェルナンド・アロンソも出場したことで、大いに注目を集める大会となった。琢磨は予選からマシンが壁に擦るほどギリギリのライン取りでアタックを繰り返し、決勝レースの4番手を獲得する。
もちろん日本人としては過去最高のグリッド順だ。
だが予選が終わっても、琢磨は険しい表情のままだった。心底ポールポジションを狙っていたのだから……。
日本人のインディ500初挑戦から26年目の快挙!
決勝レース。
琢磨は序盤で少しポジションを落としたものの、冷静に周回を重ねていた。
そして残り5周でトップに立つと、追撃するエリオ・カストロネベスを振り切って優勝する――30万人の大歓声の前でミルクを飲む琢磨。
日本人が夢見続けてきたその光景が目の前にあった。
1991年にヒロ松下が初めてインディ500に挑戦してから早くも26年の月日が経っていた。日本のモータースポーツ史上、最も輝かしい瞬間だった。
100年を超えるような伝統的かつ世界的なスポーツイベントで、かつて日本人が優勝することがどれほどあっただろうか……テニスファンが錦織圭のグランドスラム制覇を待ち続け、ゴルフファンが松山英樹の全米、全英オープンなどのメジャー制覇を待つように、モータースポーツを愛する日本のファンは、日本人のインディ500制覇を待ち続けていたのである。