ル・マン24時間PRESSBACK NUMBER
ル・マンで豊田章男社長が語った、
ピット裏に掲げた「日の丸」の意味。
posted2017/07/11 11:00
text by
樹本野真波Nomaha Kimoto
photograph by
Nomaha Kimoto
ル・マンの地で、その男は微笑んでいた。
チームを率いる者として、その複雑な感情を世界中の人々に悟られることのないように「あえて笑顔を浮かべていた」という表現が正しいかもしれない。
21ものコーナーが待ち受ける全長13,629mの俗称「サルト・サーキット」の沿道では、24時間という果てしないレースの結末を見届けた約20万人の歓喜がピークに達していた。
チェッカーフラッグが降られた直後にメインスタンド横で行われた表彰式で、1位からは70センチ低い2位の表彰台には、完走したドライバーたちとともにトヨタ自動車社長の豊田章男氏の姿があった。彼が見せた笑顔はもちろん「2位」という結果に喜びそれに満足するものではないことは、その場にいた取材陣含めてそう多くはない日本人なら誰もが窺い知ることができたはずだ。
表彰台のすぐ後ろには、優勝したポルシェの母国であるドイツの国旗と敗れた日本の「日の丸」が掲げられていた。
今年もTOYOTAは負けた。あまりに劇的な幕切れとなった昨年のレースとは異なり、TOYOTAにとって万全と思われた2017年のル・マンは惨敗だったといってもいいかもしれない。
TOYOTAがハイブリッドカーで世界三大レースのうち最も過酷といわれる「ル・マン24時間耐久レース」に参戦したのは2012年。6年目となった今年、多忙を極めるトヨタ自動車のトップである豊田氏は決勝レース前日の6月16日に初めてのル・マン入りを果たした。サーキットにその姿を現すと、昨年激闘を繰り広げた“宿命のライバル”のポルシェ陣営にも温かく迎えられ、観戦客たちからもまた昨年のようなドラマチックなレース展開を期待されているのがよくわかるように「トヨータ!」と多くの声がかけられていた。
昨年のレース直後、豊田氏は悲しみに沈むチームにメッセージを送っていた。
「その場にいてやれなくてごめん」
同時に、応援してくれた人たちへはこうコメントしていた。
「また、1年後、生まれ変わった我々を、再び全力で受け止めていただければと思います。皆さま、“負け嫌い”のトヨタを待っていてください」
それから365日――。また新たな「24時間」のためにチームは昨年にも増して結束を固めていた。