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井上尚弥は1分半で距離感を見切る。
米上陸で“世界のスター”にリーチ。 

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渋谷淳

渋谷淳Jun Shibuya

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photograph byHiroaki Yamaguchi

posted2017/05/23 12:20

井上尚弥は1分半で距離感を見切る。米上陸で“世界のスター”にリーチ。<Number Web> photograph by Hiroaki Yamaguchi

井上尚弥のパンチは、まるで1人だけ時間の進み方が違うようなスピードで対戦相手を捉えつづけた。この怪物、底がしれない。

「拳はほんと、全然問題ないんですよ」

 確かに世界初挑戦だったロドリゲスの力量は、世界トップクラスではなかったかもしれない。それでもなお、この日の井上は我々に挑戦者の力量を問いたくなるような暇を与えなかった。まったく隙のない、パーフェクトな出来だった。

 これまで試合中に拳を痛めたり、腰を痛めたりして不本意な試合に終わることの多かった井上が、そうしたトラブルに一切見舞われなかった点は強調しておこう。

「拳はほんと、全然問題ないんですよ。ほんと、井上イコールけが、みたいに書くのやめてください。よろしくお願いします!」

 サンドバッグを素手で叩くようにして拳を鍛え、スパーリングは1日4ラウンドまでにセーブし、オーバーワークによるけがを防ぐなど、井上はさまざまな工夫を凝らしてコンディションを整えるようになった。唯一の弱点であったけがによるトラブルさえも乗り越えた今、井上は本当に、デビュー当時のキャッチフレーズ“怪物”に近づいてきたように思える。

公開計量に何千人ものファンを集めるボクサーに。

 その絶対王者がいよいよ9月、アメリカに進出することになる。

 井上は昨年9月、ロサンゼルス近郊のアリーナ「ザ・フォーラム」でスーパー・フライ級のトップ対決、パウンド・フォー・パウンド1位のローマン・ゴンサレス(ニカラグア)と無敗のWBC世界スーパー・フライ級王者、カルロス・クアドラス(メキシコ)の一戦を生観戦し、アメリカのリングを渇望するようになった。今秋のアメリカは現状「9割方決まった段階」ではあるが、井上の気持ちが高まらないわけがない。

「アメリカは本場ですから、そこで認められたら世界のスターになれる場所というイメージ。公開計量に何千人のファンが来る? そうですね、そういう選手になりたいですね」

 大橋秀行会長によると、アメリカでの試合は対戦相手こそ決まっていないものの、防衛戦という方向で話が進んでいる。“顔見せ”という意味合いが強いとはいえ、強烈なインパクトを残せば、今後のマッチメークに好影響を及ぼすだろう。

【次ページ】 ロマゴンかクアドラスか、はたまたバンタム級か。

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