鈴木誠也「調子が悪いのは、技術不足です」

　広島の新4番・鈴木誠也も一時期、らしくないバッティングをしていた。数字的には気にするほどではないとはいえ「半速球は特に問題ないんですけど、ストレートをしっかり打てていない」という彼の言葉からも苦悩ぶりがみえる。

　筒香のように「WBC後遺症」として取り上げられることは少なかったが、鈴木もまた、新しいものを得ようとする1人だった。

「いま調子が悪いのは、僕の技術不足です。でも、悪いからと焦ってもいないです。去年より対戦相手のレベルが上がっていますし、僕がそれについていけていないだけだと捉えています。昨季は自分の中で試していたことが、シーズンの途中からはまっていって結果に表れた。今、いろんなことを試しながら、何が自分に合うのかなというのを確認しながらやっている最中なので、自分の技術不足でこういう結果になっているだけです。最初からいい結果が出るとは思っていないので、試しながらいい感覚をつかめればいい」

　6－10と4点ビハインドの9回表、無死一塁で打席に入った鈴木は左翼スタンドに飛び込む2点本塁打を放った。追撃届かず試合は結局敗れたものの、鈴木はDeNAの守護神・パットンのストレートをしっかりと捉えていた。バットで振りぬいたというより、身体の回転でうまく打った、技術の本塁打だった。

「マグレじゃないですか。僕の中では完璧に打てたという風には考えないですね。必死だったので、とにかく塁に出ようと思った結果がそうなっただけだと思います。上手く回転して打てたかどうかは、それは見てくれている方がそうやって評価していただければいいことなので、僕がそれに対して何かを言うことはないです」

良いものを身に付けるには苦労する、という信念。

　鈴木には、打撃について求道者のような高い意識がある。

　良いものはすぐには手に入れることができない。いろいろな壁にぶつかって、それを一つずつ乗り越えていくことで、新しいところに到達できると信じている。昨年、苦しんだ時期があったからこそ高い数字を残すことができ、WBCに選ばれるような選手になった。今季も苦しみもがきながら、昨季をさらに超えて、バッターとして一流になれるように現状と向き合っているのだ。

【次ページ】　秋山翔吾「WBCで記憶に残っている打席はあります」